先日の実験で「平均勾配5.4%のヒルクライムにおいて、5w/kgまで出力が上がるとスペシャリッシマ(900g重いエアロディスク車)有利。4.4w/kg程度であればエモンダ(軽量リムブレーキ)有利」という結果が出ました。
参考にするかどうかは読まれた方にお任せしますが、「ヒルクライムでは、軽量リムブレーキ車(エモンダ)と、900g重いエアロディスクブレーキ車(スペシャリッシマ)では、どっちが速いの?」の問いに対して、一定の指標が出たと思っています。
この結果を踏まえて、実験のサブタイトルである「富士ヒルではどっちを使うべきなの?」について、考えてみました。
例の如くまどろっこしくなる事が予想されるので、先に結論から書きます。
出来れば、追試をしたいと思います。その理由は、理論的に考えた解と個人的な感覚の解に違いがあったからです。ただ、本番まで週末はあと2回しか有りません。追試の時間を取れなければ、エモンダを「実験前の仕様に戻して」臨むつもりです。
「実験したままの仕様」であっても、理論上はエモンダで行くべきだと思います。ただ、感覚的にはスペシャリッシマで行きたいと感じています。
本投稿は「エモンダとスペシャリッシマ、富士ヒルはどちらに向いているのか」「なぜ理論上と感覚のギャップが発生したのか。その対策は?」について考察します。
なお、こちらも結論を先に書くと、「エモンダのタイヤを、TLからCL+ブチルチューブに替えたから」だと考えています。
富士ヒルゴールド獲得のために、いま分かっている事
- 富士ヒルゴールド獲得のためには、24km/平均勾配5.2%のコースを、平均22.3km/hで走り切る必要がある。
- コース全体の1/3弱が、標高2,000m以上。空気が薄くなる為、空気抵抗が減る。一方、下界と同じパワーは出せない事が多い。
- 実験時のFTPは、事前にZwiftで計測した281w、4.68w/kg。
- 実験の結果、FTP×95%の265wで勝尾寺を走行したところ、エモンダの方が約5秒速かった。平均速度は、20.3km/h。富士ヒルに直すと、71分ペース相当の速度だった。
- 同、FTP×107%の301wでは、スペシャリッシマの方が約5秒速かった。平均速度は、22.6km/h。同63分後半ペース。
- 実験は、エモンダはブチルチューブで、スペシャリッシマはラテックスチューブで走行した。
以上を踏まえて、どちらの自転車を使うべきか考察します。
スペシャリッシマで行くべき理由
- 富士ヒルの方が平均勾配は(0.2%だけ)緩いので、スペシャリッシマ有利。
- ゴールドを獲得するためには、スペシャリッシマに分がある速度域で走る必要がある。
- 当日吹きさらしの強風が吹けば、エアロ性能に優れるスペシャリッシマが有利(な気がする)。
エモンダで行くべき理由
- 当日は、(恐らく)単独TTでは無い。集団走行になれば、非エアロフレームのデメリットは薄れる。その理屈から言うと、空気が薄いことも非エアロフレームのデメリットを薄める (のではないか?)
- スペシャリッシマが速いのは、あくまで高出力・高速域での話。筆者の現時点での実力的に、実験結果をみてもエモンダ優位。
- 実走且つレースなので、基準値よりも高い値で走行出来る可能性はある。ただ、FTP107%の維持は難しいだろう。加えて、高地によるパワー減もある。
実験結果とコースの特性・集団走行などの条件を列挙した限り、エモンダを選んだ方が有利に見えます。しかし、もし「今のまま」どちらかを選ぶのであれば、私はスペシャリッシマを選びたいと思っています。
その理由は、走行フィーリングが違いすぎたからです。
先日の勝尾寺での実験、走行順は記載していませんでした。実は(ってほどの事でもありませんが)、延長戦含めた6本の走行順は「リッシマ×2→エモンダ×3→リッシマ×1」の順でテストしています。
そして、エモンダで3本登った後の6本目(リッシマの3本目)で、明確に「スペシャリッシマの走行感が、異常に軽い」と気がつきました。最初の2本では、「ん?リッシマこんなに軽かったか?朝イチだから?」程度にしか分からなかったのですが。
体力的には一番疲れている6本目でこのような感覚になったので、気のせいだけとも思えません。この感覚が非常に強かったので、理論的にはエモンダが良いように思うのですが、一方で感覚的にはスペシャリッシマを使いたいと思っています。
「最後は気持ち」で全部ひっくり返すのかよって感じですが、決定的なスペックの差が無ければ、走りに対するフィーリングの善し悪しは最後のひと踏ん張りには効いてくるはずです。
では、あれだけ気に入っていたはずのエモンダの走行感を、なぜ今回スペシャリッシマが上回ったのか。これは、今回の実験に際して変更したチューブが影響していると考えています。
「実験」のために変更した項目
- エモンダ:コンチネンタル GP5000 TL→ Michelin(CL)+ブチルチューブ
- スペシャリッシマ:グッドイヤー Vector 4 season TL→ Michelin(CL)+ラテックスチューブ
今回の実験にあたって、足回りを以上のように変更しました。
(タイヤの銘柄は?というツッコミが入りそうですので、写真だけ。この写真では見切れてしまっていますが、私にはこの右側にアルファベットで「C・U・P」と印字されているように見えました。走行感、特にスペシャリッシマでは非常に良かったです。耐久性次第では、GP5000から乗り換えるかもしれません)
メインの趣旨に沿うよう、タイヤを4本ともこの製品に交換しています。ただしチューブは、エモンダはカーボンリムですのでブチルを使わざるを得ません。スペシャリッシマは、ディスクブレーキ車ですのでラテックスを使えます。
メリットデメリットは理解した上で、あえてこのチョイスとしました。メインの目的を果たすという意味では、これで良かったと思っています。ただ結果的には、副題の判断については迷う原因になったかもしれません。
だったら、どうして最初からTLでテストしなかったの?
業界的に、「完全なTL」が尻すぼみに思えたからです。
タイヤメーカー各社から(上記含め)新製品が発表されていますが、ラインナップされるのはことごとく「TLR」。本当の「TL」を市販しているメーカーは、IRC他ごく一部に限られます。何が理由なのかは分かりかねますが、業界として「TLR」に舵を切っている印象です。「TL」は諦めたのでしょうか?私の愛用していたコンチネンタルも、TLRになってしまいました。
個人的には、シーラント必須のTLRはあまり好みではありません。
まず、シーラントの管理が面倒です。定期的に補充すれば良いのですが、いい加減な私は忘れてしまいそうです。コンチネンタルは完全なTLでしたので、保険で少々入れてあるシーラントがタイヤの中で乾いても、特に問題はありません。また、臭いシーラントを自宅でまき散らそうモノなら、家族から大目玉です。(ただでさえ、室内に何台も自転車がある時点で肩身が狭いのに)。
また、乗る機会が無くても、ビード落ちしないよう空気を定期的に入れなければなりません。エモンダは、今後レース専用機になる予定ですので、毎週乗るバイクではなくなります。それでも空気だけ入れろというのは、正直面倒です。
その他、過去にトラウマレベルでビードが上がらないタイヤがあったので、タイヤとリムの相性問題にも関わりたく有りません。コレに関しては、タイヤをコンチネンタルのTLに固定してからは、この不満は発生していませんが。
このような経緯もあり「管理が面倒なTLRを使うくらいならCLで良いかな?」と思い始め、CLでのテストに至った次第です。
性能的には、TLの利点を実感した今回のテスト
一般に、同一銘柄のタイヤで比較した場合
- 走行抵抗や速さ・重量といった数値化出来るモノ
- 軽快感などの数値化出来ないモノ
どちらも 「TL(TLR)>CL+ラテックス>CL+ブチル」 の順にメリットがあると思います。だからメーカーも、TL(TLR)という選択肢に開発資源を投じ、販売しているはずです。単に「儲かる」だけの理由ではないのでしょう。
ただし、私が上で経験したようなデメリット等々により、ユーザー数は 「TL(TLR)<CL(ラテックス)<CL(ブチル)」 というのが実情ではないでしょうか?
エモンダは、もともとTL運用でしたので「2段階デチューン」しての実験でした。
足回りの総重量は実験前より重くなり、走行フィーリングは明確に悪化しました。TLタイヤ290gに対して、「タイヤ+チューブ」で327gです。もし、今よりリム(よりさらに外周ですが)が37gも重くなれば、そんなホイールをわざわざ買う人がいるでしょうか?重量だけでなく、仕組みとしてもマイナス方向への変更です。実験の条件を揃えるためとはいえ、エモンダはハンデを背負っていました。
それでも、中出力域ではスペシャリッシマより良いタイムを出しました。これは、エモンダのポテンシャルだと思います。あの実験、どのように読まれたかは各人にお任せしますが、個人的には「4年前のエモンダは、まだまだ一級品である」という事が、とても印象的でした。同時に、「この足回りではエモンダの良さが活きない」とも感じましたが。
なお、スペシャリッシマも「デチューン」したのですが、そこまで悪化を感じなかったのは、なにが原因だったのでしょうか?ここは、分析出来ていません。
実験前のタイヤの違いによるものでしょうか。もしくは、TLを100としたとき「ラテックスに換えると93、ブチルに換えると75」のように、性能の下がり幅が異なるのかもしれません。(数値は、あくまで例えですが)。
これまた余談ですが、リム車エモンダで普段履きにしていたゾンダでは、今回スペシャリッシマで使ったものと同じラテックスチューブを使っています(金属リムですので、ラテックスを使えます)。
従って、私ははここ数年ブチルチューブを使っていませんでした。だからこそ余計に「ブチルチューブってこんな感じだったっけ?」となっているかもしれません。それとも、単に今回のブチルチューブが私に合わなかっただけかもしれません。そこは否定は出来ません。
そして、タイム差への影響も重要ですが、所詮趣味のサイクリングです。走行感の部分で魅力が落ちるのは、頂けません。ある意味、一番重要な部分です。
まとめ
サブタイトルの「富士ヒルではどっちを使うべき?」という問いに対しては、
エモンダの「デチューン」を元に戻せば走行感は戻り、高速域においてもエモンダの方が速いのではないか?即ち、両車をTLにして理論上ベストの仕様で走り比べれば「今回の富士ヒルは、エモンダ一択だ」という判断が出来るのではないか?
このように考えています。エモンダは、それで少なくとも元の走行感を取り戻します。
ただ、今更新品のTLタイヤを4本購入しても、自室に「お試し」しただけの準新品のタイヤが何セットも出来上がってしまいます。年間走行距離が4,000km程度の私には、到底使い切ることが出来ません。現実的には、
エモンダのタイヤだけを元のGP5000 TLに戻して、追試
〃、富士ヒルはエモンダで臨む
となりそうです。時間があれば、「ブチルチューブ探しの旅」に出ても良いのですが、本番当日までの時間的猶予がありません。
今まで、タイヤやチューブは「パンクせず、しっかりコーナーでグリップして、出来れば長持ちしたら良い」程度にしか考えていませんでした。結果的に、コンチネンタルのGPシリーズをずっと使っていました。諸々考えるのが面倒なので、とりあえずコレ使っておけば間違いないっていう感覚でした。
ただ、(たまたま)今回の実験を通して、「チューブシステムによる走行感の違い」を理解する事が出来ました。
今後はせっかくなので、トレーニングと同時に「自分に合うブチルチューブやタイヤを探す」という事も楽しんでみようかと思います。
気に入った製品が見つかった暁には、vol.2としてまた「対決」させてみようと思います。