ここ数年、ロードバイクが恐ろしいほど値上がりしてます。Twitterにも投稿しましたが、私が乗っているTREKのEmonda SLRは、5年前と比較して1.5倍弱値上がりしました。
率直に言って、高すぎです。この値上げは、一体何が原因なのでしょうか?
今回は、ロードバイクがなぜこんなにも値上がりしたのかを考えてみました。
直近5年の世界の変化
欧米の物価上昇
結論から言うと、2018以降の5年で,欧米では20%近く物価が上昇していると言うデータを見つけました。単純計算すると、5年前50万円で買えたものは、2023年のいま60万円必要ということです。
ひとつめは、こちらの記事です。完全な比較にはならないようですが、2022年1年間のEU・アメリカのインフレ率は、9.2%、8.7%(日本は同2.5%)とのこと。また、こちらの記事によれば、2019年頃までは毎年2%程度だった消費者物価が、コロナ明けの2022年からは急激に10%近くまで上昇したようです。
これらの物価上昇が良いかどうかは別にして、事実としてとくにこの直近2年、欧米では物価が急激に上昇している事が分かります。
- 2018年から3年間:毎年2%
- 2021年以降の直近2年:毎年8%
先の記事を正とすれば、欧米ではこれくらい物の値段が上がっていることになります。
製品価格 | 物価上昇率 | |
2018年 | 50万円 | 2% |
2019年 | 51万円 | 2% |
2020年 | 52万円 | 2% |
2021年 | 53万円 | 2% |
2022年 | 57.3万円 | 8% |
2023年 | 61.8万円 | 8% |
2018年比 | 11.8万円 | 123.6% |
机上の話ではありますが、2018年当時50万円だったものは62万円程度になっている計算になります。
では、なぜこれだけ物価が上がったのでしょうか。
理由は様々あると思いますが、この5年間で世界を揺るがす大きな出来事が、少なくとも2つありました。みなさまご承知の通り、新型コロナウィルスの世界的な流行と、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。
これら2つの出来事が、なぜ欧米の物価だけをここまで大幅に上昇させたのかは、筆者は不勉強で上手に説明ができません。ここでは、新型コロナとウクライナ情勢が物価を押し上げた理屈だけを、簡単におさらいするに留めます。
新型コロナウィルス感染拡大と物価の関係
世界のさまざまな工場が集中する中国を筆頭に、世界各地でロックダウンが起こる
→コロナ禍により、工場の稼働停止。世界的な物不足が発生。
→欧米各国が、いち早くコロナ明けするも、中国はロックダウンが継続。更に世界的な物不足・人不足が発生。
→欧米を中心に物価上昇
また、上記に加え、自転車はコロナ禍の移動手段として重宝される。
→欧州中心に、購入時の補助金制度誕生。
→需要が増加。
ウクライナ情勢と物価
先進国各国による、ロシアへの経済制裁措置発動。
→ロシアからのエネルギー・資源調達に制約が発生。
→エネルギー・資源価格の高騰。これが物価上昇要因に。
直近5年の日本の変化
欧米諸外国同様、日本も新型コロナの影響・ウクライナ情勢の影響は多分にありました。しかし、欧米諸国ほど物価は上がっていません。
そして、欧米諸外国と違うのは、金利政策です。
欧米諸外国は、インフレ抑制のため金利を大幅に引き上げました(引き上げています)。一方日本は、低金利政策を継続しています。
この金利差が、円安を生みました。
円安の進行
欧米各国の中央銀行は、インフレ抑制のため金利を上昇させています。一方、日本の中央銀行は金利を上げていません。
結果、金利の高いドルやユーロが買われ、円は安くなっています。皆様ご承知の通り、円安がすすむと、相対的に海外の製品は値上がりします。
ということで、ここではドル円とユーロ円の為替レートを、定点観測してみました。下記数値の元データは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのHPです。
ドル円 | ユーロ円 | |
2018年6月1日 | 約109円 | 約127円 |
2019年6月3日 | 約108円 | 約121円 |
2020年6月1日 (コロナ) | 約108円 | 約120円 |
2021年6月1日 | 約109円 | 約134円 |
2022年6月1日 (ウクライナ情勢) |
約129円 (その後150円まで円安進行) |
約138円 (その後150円まで円安進行) |
2023年6月1日 | 約139円 | 約149円 |
2018年比 | 127% | 117% |
これによると、コロナ禍ではさほど為替レートは変わっていないように見えます。為替レートが円安に動き始めたのは、2022年以降です。
5年前と比べたとき(というよりも直近2年で)、ざっくり20%程度円安になりました。(ピークの150円の時だと、137%の円安です)
つまり、5年前に50万円だった海外製品は、為替変動によって相対的に10万円ほど高くなったはずです。
自転車界の話
そもそもの話として、私は「向こう側」の人ではありません。たまに「向こう側」の人と連絡はとりますが、ユーザー側の人間です。よって、この項は「向こう側」の人が見た時、ツッコミどころがあるかもしれません。まあ、向こう側の人がわざわざ見てるとも思えませんが。
本題に入ります。
まず、シマノの決算書報告書が示す通り、ロードバイクは基本的に欧米とアジア(台湾?)のモノです。実際、メーカーは欧米の会社が多くを占めています。工場は、台湾と中国が多いですね。
だいぶざっくりですが、日本の市場は世界合計を100%とした時、10%あるかどうかだったと記憶しています。スラムやカンパの売り上げ比率は分かりませんが、一旦ここではシマノとイコールと仮定します。
そして、大前提として製品の仕様や価格は、欧米やアジア(正味台湾?)に決定権があります。日本の代理店(〇〇ジャパン)の多くは、本国が決めた価格で仕入れている筈です。それを日本国内でいくらで売るかは、〇〇ジャパンで決める事ができるようです。これもメーカーによりそうですが。(ここは、メーカーごとに相当差があると予想します。私の記憶が正しければですが、スペシャのターマックSL7は日本だけ安かった筈なので、世界一律では無いめーかーもある筈です)
つまり
- ロードバイクの卸価格決定権は、原則欧米側にある(であろう)。
- ロードバイクは、欧米(海外)のモノ。よって、円安化では相対的に高くなる。
このように考えられます。
そして、先にお示しした通り、欧米では5年前と比較して物価は20%上昇しています。どのメーカーも、自国の物価が上がればそれにあわせて卸売り価格を上げる or 利益を削る必要があります。そうしなければ、彼らの会社・生活が立ち行かなくなります。
これにより、日本への輸出価格(=〇〇ジャパンの仕入れ価格)も、彼らの物価に合わせて高騰していると推測できます。
それに加えて、5年前と比較して為替レートは20%近く円安に触れました。繰り返しになりますが、ロードバイクは海外のモノです。ドルorユーロベースで卸価格が設定されていれば、日本円では5年前比(厳密にはこの2年で)20%程度高くなる筈です。
これらを計算すると、仮に5年前50万円の製品があった場合、欧米の物価上昇分と為替レート変動分だけで、計算上72万円程度になっています。値上げ率に換算すると、144%です。
もし5年前100万円の製品であれば、44万円アップの144万円です。
TREK Emondaの価格推移
私は、2018年9月に結婚前の駆け込みでエモンダのフレームを購入しています(なお、妻にもバレています)。そのような経緯もあり、今回はTREKエモンダの、2018年モデル以降の価格を調べて比較してみました。価格は税込です。
ショップの過去のブログetcを参考に埋めてみましたが、多少の抜け漏れや金額の誤りはご勘弁頂ければ幸いです。表の目的は、正確な金額の確認ではなく、この5年の価格推移をイメージする事です。
なお、重量やアッセンブルされたコンポのランク。また、ブレーキのディスク化・油圧ブレーキ×機械式変速のシフターはデカくて云々がある事は重々承知して居ますが、それらの要素も入れてしまうと訳が分からなくなります。
一旦ここでは、プライスタグの推移だけを追います。
以下、表のモデル名の説明です。
- SLR最高:フレーム・ホイール・コンポ全てがハイエンドのプロ仕様モデル。コンポは、etapではなくデュラエースの価格とする。
- SLRお得:フレームはハイエンド、コンポとホイールで価格を抑えたモデル。SLRフレーム最廉価モデル(シマノコンポ)を基本とする。
- SLエントリー:フレームはカーボンのセカンドグレード。コンポとホイールは価格を抑えたモデル。SLフレーム(シマノコンポ最廉価)を基本とする。
SLR最高(リム) | SLR最高(DISC) | SLRお得(リム) | SLRお得(DISC) | SL(リム) | SL(DISC) | |
2018 | 120万円 | - | 59万円 | - | 23万円 | - |
2019 | 59万円 | 80万円 | 26万円 | |||
2020 | - | 20万円 | 31万円 | |||
2021(モデルチェンジ) | - | 121万円 | - | 82万円 | 31万円 | |
2022 | - | 142万円 | - | 94万円 | - | |
2023 | - | 171万円 | - | 107万円 | - | 40万円 |
2018比 | - | 約143% | - | 約181% | - | 約174% |
「最高」に関しては、143%程度の値上がりです。これは、円安と欧米の物価高騰に伴う日本国内での値上がり率と、およそ一致しています。
一方、「お得」と「SL」に関しては、欧米の物価上昇と円安だけでは説明がつかないほど値上がりしてます。コンポやホイール・タイヤのランクをひとつひとつ調べた訳ではないので推測にはなりますが、ディスクブレーキ化に伴うコンポの価格差が含まれている可能性があります。
納得出来ますか?と言われて納得出来る話では無い、正直。
ここまでをまとめると
- ロードバイクの高騰は、欧米諸国の物価高騰と円安を反映している
- 一部モデルは、ディスクブレーキ化によって値段が上がった可能性がある
と考えられます。勿論、私が購入したTREKのエモンダしか見ていないので、ロードバイク全体の話と言い切ることは出来ませんが。
さて、ここまではなるべく私情感情を抜きにして、客観的にみてとれる数値をベースに記事を進めてきました。
この項は逆に、私情感情を中心に話を進めます。
「日本でのロードバイクの価格は、本国の物価高騰に合わせてが輸出価格が上がり、更に円安で20%割高になる。」
これ納得できますか?って話だと思います。
私個人的には、「頭では理解できたけど、正直納得はし難い」です。理屈は理解できるけど、気持ちが追いつかないっていうのが正直なところでしょうか。
5年前と比較して、値段は1.5倍になりました。ただ、自転車を買う・乗る事で得られる体験や喜びが、150%増えたとは思いません。2021年式スペシャリッシマは2018年式エモンダと比較して性能は上がったとは思いますが、1.5倍の価値は感じません。
日本は、欧米諸国ほど物価は上がっていません、よって、(少なくとも私は)お賃金もそこまで劇的には上がっていません。一方で、ロードバイクの価格は欧米諸国の物価に合わせて値上がりました。
そうなれば、日本人が「ロードバイクは異常なほど高騰した」と感じるのも、無理はないと思います。仕組みはある程度理解できたとはいえ、私も正直受け入れ難いです。もっというと、「もう買えないな」というのが、正直なところです。
これをSNS上で呟くと指摘されるのは、「日本は賃金が上がっていないから、相対的に貧乏になった」説。次は、これについて調べてみました。
欧米の賃金は、物価上昇分に見合うほど上がっているのか?
ロードバイクは、欧米諸国の物価上昇に合わせて値段が上がっている可能性があると書きました。では、欧米諸国は、物価上昇にあわせて賃金も上がっているのでしょうか?
もし上がっていれば、彼らは5年前と比較しても「ロードバイクが高くなった」とは感じない筈です。逆に賃金が物価ほど上がっていなければ、彼らも「ロードバイクは高くなった」と感じる筈です。
これについて調べたところ、このような記事A・記事Bを見つけました。記事の内容は、ヨーロッパ・アメリカ共に、物価上昇ほど賃金は上がっていないという趣旨です。
これらの記事が欧米各国の状況を完璧に反映しているかは分かりませんが、もしこれらが正しければ、欧米人にとってもロードバイクは高くなっている筈です。
もしこの記事の内容を踏まえて仮説を立てると
- 日本人の賃金は、殆ど上がっていない(人によるでしょうが)。ただし物価上昇率は2%強。
- 欧米人の賃金は、5%程度上がっている。ただし、直近の物価上昇率は8%強。
よって、「日本人の給料が上がっていないからロードバイクは買えなくなった」理論は正しいです。ただ、給料が上がっている欧米人の方が、日本人よりも直近の生活は苦しく、ロードバイクは買えなくなっている可能性があります。
北米3メーカーは、セールを開始
日本人が買わないからか、欧米でのセールスが芳しくないのか、単に2024年モデルの発表が近いからなのかは分かりませんが、トレック・スペシャライズド・キャノンデールの北米大手3メーカーはセールを始めました。
これは個人的な認識ですが、ロードバイクは嗜好品です。人によっては生活必需品かもしれませんが、大多数の人にとっては遊び道具・趣味で使うモノだと思います。
物価が上がれば(かつ賃金が物価に追いつかなければ)、嗜好品から切り詰めざるを得ません。水や電気、米や野菜は値段があがろうと買う必要がありますが、嗜好品であるロードバイクは、値段が上がれば購入を諦める人が出てくる筈です。露骨な表現をすれば、お金持ちしか買えなくなります。
メーカーからすれば、エネルギー・資源価格が高騰すれば、それに合わせて値段を上げる必要があります。それは理解できます。
ただ、賃金上昇が伴わない状況下で物価にあわせて嗜好品の値段を上げてしまえば、どうしたって売れなくなります。結果、値段を下げざるを得なくなります。
個人的な予想ですが、2024年モデルも最初は現行モデルより値上がりすると思います。ハイエンドモデルは、その価格でも買う人がいて、価格を維持できると思います。ただ、廉価品に関しては、ちょっと待てば2023年モデル同様値下がりするような気がします。
まとめ
まとめというほどまとめる事も無いのですが、5年間と比較して1.5倍になったのは本当に驚きました。メーカーや代理店を批判するという事ではなく、ただただ信じられないという気持ちです。
表題を回収するとすれば、ロードバイクの価値が1.5倍も上がったとは思えません。
ただ、これも繰り返しになりますが、この価格高騰は欧米諸国の物価高騰とそれに伴う?円安の進行が相当影響している筈です。よって、彼らの物価高騰が一服しない限り、いつまでもロードバイクの価格もこなれてこないのかな?と思います。
値段が下がる事が100%正しいとは言い切れませんが、当面もう少し手に届く価格帯になってほしいなぁとは思います。
5年前のモデルですが、全然現役です。修理してでも手元に残して、本当に良かったです。