調査

乗鞍ヒルクライム 年代別参加人数の推移


先日、乗鞍ヒルクライムが開催されました。筆者は、今年はまだ2回しかロードバイクには乗れておらず大会には参加していませんが、皆さんのご活躍をSNSで眺めておりました。

すると、大会の参加人数と年代を示した表の写真と共に、このような主旨の投稿が目に入りました。

このスポーツはオワコンだ と。

確かに、50代の参加者が目立ちます。ただ、乗鞍は元々若い世代が大勢参加するイメージもありません。

このような話をするときは、過去からのトレンド・流れを追う必要があります。それだけでは足りない場合も多々ありますが、少なくとも単年の数字だけを見るよりはマシです。と言うことで本記事では

  • 10年前の2015年
  • 6年前の2019年(5年前の2020年はコロナ初年で中止のため)
  • 2024年

の、乗鞍ヒルクライム年代別参加者人数を調査し、推移を見てみることにしました。後半では、オワコンなのかについて筆者なりの考えも書きたいと思います。

参加人数集計のルール

  • 数字は、各年代男子のエントリー数。女子は、年代が分からないので割愛とした。
  • 各年の大会参加人数は 2015年:乗鞍大雪渓のwebページ記事(こちらより)・2019年:公式リザルト・2024年:本記事作成の元となったSNSに投稿された写真 とした。
  • チャンピオンクラスは、年代構成比が不明。本記事内では、各大会のチャンピオンクラスに20代:30代:40代が4:4:2の割合で参加していると仮定し、各年代の人数に振り分けた。
  • 乗鞍の年代別カテゴリーは、男子B21~30歳・男子C31~40歳…のように各カテゴリー2年代の選手が混在する。正確を期すなら、男子Bの10%は30代にカウント、男子Cの10%は40代に(以下同様)が必要であるが、集計の手間が膨大になる。よって本記事では、男子Cの31-40歳は30代・男子Eの46-50歳は全て40代とみなして集計した。
  • 2015年大会の男子Aカテゴリーは、16~25歳のため10代と20代が混在する。2019年大会の10代と20代の人数比が1:5だったので、2015年大会の男子Aにもそれを当てはめて、10代と20代に振り分けた。
  • 平均年齢は、全員が当該カテゴリーの真ん中であると仮定し(30代なら35歳・40代なら45歳)、計算した。

2024年大会

こちらはSNSに挙がっていたので、サラッとに留めます。

年代 人数
10代 72
20代 276
30代 500
40代 874
50代 1,207
60代 551
70代 84
EXP ※ 160
合計 3,564
平均年齢 48.8

ボリュームゾーンは、参加者の34%を占めた50代。次いで、25%を占めた40代。この2世代だけで、全体の59%ということが分かります。

30代と60代は、ほぼ同数でした。健康寿命が延びているという事なのでしょうか?現在30代後半に片足を突っ込んだ筆者ですが、25年後にも自転車に乗っているか?と問われると、正直自信はありません。

10代と20代は、合算してやっと全体の10%でした。アクセスに車が必須など理由は色々あると思われますが、乗鞍は若年層の集客という点においては課題があるのかもしれません。

2019年大会

年代 人数
10代 59
20代 430
30代 804
40代 1,348
50代 1,271
60代 277
70代 52
EXP ※ 314
合計 4,241
平均年齢 45.3

最も多い年代は、参加者の32%を占めた40代でした。ただ、50代も約30%です。この2世代は、ほぼ同率首位と言って差し支えないでしょう。

3番目に多かったのは、30代。以下、20代・60代と続きます。後述しますが、30代の参加人数は2015年大会と比較して倍増しています。2019年当時で筆者もすでに30代に突入しておりましたが、同世代で自転車を始める人が増えたという感覚は特になかったと記憶しているのですが…

2015年大会

年代 人数
10代 22
20代 486
30代 440
40代 1,946
50代 866
60代 207
70代 38
EXP ※ 302
合計 4,005
平均年齢 44.8

40代が48%というのは、かなり驚きです。参加者のほぼ半数が40代男性と言っていいでしょう。次いで、50代が22%。この2世代だけで、全体の70%を占めます。「ロードバイク」では主語が大きすぎますが、少なくとも「乗鞍」は、2015年当時からおじさんの趣味といって問題ないように思います。

20代と30代は、それぞれ全体の10%強。どちらの年代も60代より人数が多い点は、2024年度の人数構成と大きな違いのように見えます。この頃は、若い人が多く大会に参加(エントリー)していた事が数字からも読み取れます。

各大会を並べて比較してみました

  2015年 2019年 2024年
10代 22 59 52
20代 486 430 276
30代 440 804 500
40代 1,946 1,348 874
50代 866 1,271 1,207
60代 207 277 551
70代 38 52 84
EXP ※ 302 314 160
合計 4,005 4,241 3,554
平均年齢 44.8 45.3 48.8

まず目についたのは、平均年齢の変化です。比較の間隔が5年毎では無い(4年と6年)なのでフェアではありませんが、それを差し引いても2019→2024の上がり幅が大きいなと。

この10年で40代が半減しているのに対して、60代は倍増しています。30代は、2019年時点では大きく増加していたのですが、6年後には元通り。これが平均年齢に大きく影響していると考えられます。

また、20代は減少。若い人が増えてこない現実は、数字からも見て取れます。

高齢化が進んでいるのは、明確です。ただ、60代でもこれだけの参加者を集めることができるのは、その気になれば長く続けられるという意味では希望もあるのかな?と感じました。

年齢基準で2015年と2024年を比較してみました

2015年大会に20代で参加した人が2024大会に参加する場合は、30代の枠で参加する事になります。。同様に、2015年当時40代だった方は50代になられました。

本項では、このように「2015年当時の年代」を基準に人数を比較してみました。

以下の年代別表は、○○代の前に「2015年当時」の但し書きをつけてお読み下さい。2024年の現在は、+10となります。現在30代の筆者であれば、以下の表では「20代」の枠にカウントされています。

  2015年 2024年 増減
1-9   52 +52
10代 22 276 +254
20代 486 500 +14
30代 440 874 +434
40代 1,946 1,207 -739
50代 866 551 -315
60代 207 84 -123
70代 38 不明 -38
EXP ※ 302 160 -
合計 4,005 3,554 -451
平均年齢 44.8 48.8 +4.0

いかがでしょうか?個人的には、30代枠(現在40代)の増加数が非常に意外でした。一方、40代枠(現在50代)の減少幅にも驚かされました。

2015年当時10代枠:約250人程度増加。学生から社会人になり、自由に使えるオカネが増える事もあるのでしょうか。 機材の高騰etcで若者がロードバイクを始めにくくなったと言われていますが、この世代の大会参加人数は当時より確実に増加しています。

20代枠:88人程度増加。社会的責任も増えるこの世代(筆者もここ)ですが、それでも大会参加人数は増加しています。 正直意外な結果でした。

30代枠:2015年比で倍増です。現在40代の人は、10年前と比較して同カテゴリーのライバルが倍になった事を示しています。これ、かなり予想外の結果でした。自転車を始める人が減ったという論調を目にする昨今ですが、始める人も相当数居るのだと思われます(じゃなければこの結果にならない)。現在40代で10年前から自転車に乗っていた方は、実感ありますでしょうか?筆者としては、20代当時一緒に乗っていた先輩方は軒並み自転車を降りてしまったというイメージが強いので、体感とかなり異なる結果に驚いています。

40代枠:これ以降の年代は、10年前比で参加者減の年代です。年齢的に致し方ない部分もあるとは思いますが、特にこの世代の減少数は非常に大きいものがあります。現在50代の方は、「昔の自転車仲間は自転車降りちゃったなー」と感じる事が多いのでは無いでしょうか?この年代の「引退?卒業?」が、近年の自転車業界の勢い減にも繋がっているように感じます。

50代枠:40代ほどではありませんが、10年前と比較して減少しています。何回も言っていますが、60代で乗鞍に参加するのは考えられません。

60代枠:70歳を過ぎても自転車に乗っている時点で素晴らしいです。

「オワコン」なのか?

本段落は、今回取り上げた数字や他のヒルクライムレースの状況を見た上での筆者の考えになります。筆者と異なる意見を持つ人は、いらっしゃると思います。どちらかの意見が正しいとか、筆者と異なる意見の人が間違っているとも思いません。

このスポーツはオワコンなのか?

この記事を書くきっかけになったテーマです。

これは、乗鞍の参加者年代構成だけでは判断できないと思います。自転車の楽しみ方は、乗鞍ヒルクライムだけではないからです。

今回の参加者年代構成や人数が「このスポーツはオワコン」との判断に至る根拠の一つになる可能性はあると思っていますが、この数値だけで判断をするのは難しいかな?と思います。

では、ヒルクライムレースや「乗鞍ヒルクライム」はオワコンなのでしょうか?

ヒルクライムレースについて

こちらは、厳しい環境に晒されているレースは少なくないだろうなと想像します。以前に2024年ヒルクライムレースリストを作成しましたが、筆者の知らないレースが多数ある事が分かりました。同時に、幾つかの大会は本年をもって開催終了のアナウンスがありました。

理由は様々考えられますが、個人的にはヒルクライム愛好家の「年間スケジュール」が、ある程度埋まってしまっているのかな?と考えました。大会が新設されても、既存の大会と参加者を奪い合う事になって、既存の大会+@として伸びていくイメージが湧きません。

ヒルクライムレースを頑張りたい、という方がレースの年間スケジュールを組む際、多くの場合富士ヒルと乗鞍(少なくともどちらか)を基準に組み立てると思います。ヒルクライムレース愛好家が年間幾つの大会に参加するのか分かりませんが、仮に5レース参加するような熱心な人であっても、既に2つの枠は富士ヒルと乗鞍で埋まっています。

そして、富士ヒルや乗鞍を年間の目標に据えている選手目線から見れば、当該週は勿論ですがその前週と前々週はレースがあっても参加しにくいと思います。前者は6月上旬・後者は8月末です。

結果的になのか、富士ヒル乗鞍に次ぐ関東圏での大きなレースは、殆どが富士ヒルより前と乗鞍より後に開催されています。最近は、富士ヒル後~乗鞍前のヒルクライム空白期間?にも、リンク東北が福島で2つのレースを開催し始めました。

ただ、このレベルのレースになると、近年はエントリー受付後即満員どころか募集期間延長になっている印象を受けます。富士ヒルと乗鞍以外は、基本的に参加したければ参加出来る状況にあると言って差し支えないと思います。例外はハルヒルくらいでしょうか?(ここは認識が違ったら済みません)

何が言いたいかというと、ヒルクライムの年間総需要は、既存の大会で既に賄えているのかな?と考えました。「全大会の定員数合計>ヒルクライムレース参加希望延べ人数」なのでは?という。この状況でどこかが新たにレースを開催するのであれば、顧客を確保するためには需要(参加希望のべ人数)を新たに創出するか、他の大会から奪うしかありません。

数百人規模の比較的小さな大会であれば、時期とエリアによっては参入できる余地が無いとは思いません。実際、碓氷峠のレースは初日で定員に達したようです。碓氷峠でレースというのは、個人的には結構そそられます(現在の自宅からは遠いですが)。

結論。

一部の大会を除けば、ヒルクライムレース自体は需要より供給が上回っている感じがあります。そして、乗鞍の参加人数構成比からもヒルクライムレース参加者の高年齢化が伺い知れます。いつまでもオジサン需要に頼る業界は、いずれ終わりが来ます。

これを「オワコン」というのであれば、オワコンなのかもしれません。

乗鞍について

こちらはオワコンでは無いと思っています。

クルマ必須のアクセスの悪さにも関わらず、大会の人数規模は富士ヒルに次いで2位。知り合いのツテが無ければ、スタート地点周辺の宿泊施設は簡単には確保できません。

また、乗鞍は日本一のヒルクライムレース(今は富士ヒルなのでしょうか?)というだけでなく、日本一美しいと言っても過言ではない景観があります。ヒルクライムレース当日でなくても、乗鞍に行って乗鞍を自転車で走る意味は、非常に大きなものがあると思っています。昨今はEバイクもありますから、普段自転車に乗らない人でも乗鞍を楽しむことができます。

一時と比較すれば参加数が減っているのは事実かもしれませんが、大会当日乗鞍のキャパは、2024年の今でもしっかり埋まっているように感じます(外から見た限りですが)。

そして、レース関係なく行っても最高の景色が待っています。そんな乗鞍がオワコンな訳がないと、筆者は思います。

まとめ

参加者目線で見たとき、大会は沢山開催されていた方が良いです。一方開催する側からすれば、集客が難しくなります。

乗鞍は、60代の参加者が増えている状況を見るに、これからも集客力を維持し続ける様に思います。

こちらの記事でも書いた通り、乗鞍はレース以外で訪れても素晴らしい場所です。実は今年の乗鞍本番当日に高山側から登ろうと思っていたのですが、天候不良が予想されて行けなかったのが非常に残念でした。

また機会を作っていきたいと思います。


-調査
-,

© 2024 Better than nothing!やらないよりは良いロードバイクトレーンング Powered by AFFINGER5