ヒルクライム 実験 機材

ホイールが130g軽くなると、ヒルクライムはどれくらい速くなるのか? ハブ編


「ヒルクライムを速く走りたければ、足回りを軽量化すると良い」

ヒルクライムレースを頑張りたい人やロードバイクのアップグレードを検討した事のある人は、一度は目にしたであろう文言だと思います。

この「通説」を検証すべく、前回はホイール重量を130g増減させてヒルクライム対決をしました。「リム重量の違いでヒルクライムのタイムは変わるのか?」を検証するのが目的です。

今回の記事は、それのハブverです。

いつも通り、最初に結論を記載します。

  ハブ重ホイール 軽量ホイール
Lap1 16:41 / 265w 16:29 / 265w
Lap2 16:39 / 265w 16:35 / 265w

「距離5.1km・平均勾配6.0%」の峠でヒルクライムTTをしたところ、ハブを130g軽量化したホイールの方が、平均8秒速く走った。これを乗鞍のタイムに換算すると、計算上32秒程度の差に繋がると考えられる。

以上の結果となりました。なお、これは走った状況と肌感覚ですが、軽量のLap1は追い越したクルマが非常に多く若干外れ値の可能性があります。本当はLap3をやりたかったのですが、時間の都合上できませんでした。

また、この記事を読まれている方の多くは、恐らく前回のリム編にも目を通されているかと想像します。前回と同じ文面を記載するのは、読まれている方の時間をムダにしてしまいます。よって、以下本編は、前回の記事を読まれた体で一部説明は割愛します。もしまだお読みになっていない方は、差し支えなければこちらを先にどうぞ。

そして、本題に入る前に言葉の定義を。本記事でも、便宜上リムハイトが50mm程度のホイールを「エアロホイール」、リムハイト35mm前後のホイールを「軽量ホイール」として記述していきます。

加えて「ハイエンドホイール」「セカンドグレードのホイール」と書きたいとき、文字数を減らす為に「松」「竹」で表現する場合があります。律儀に「ハイエンドホイールとセカンドグレードのホイールを比べたとき、ハイエンドホイールの方が」と書くと、画面がカタカナまみれで凄く読みにくいと思いますので。

(余談ですが、松竹梅・甲乙丙のようなランク分け?を英語でそれっぽく書こうと思ったのですが、調べても分かりませんでした。英語には、このような表記文化は無いのでしょうか?)

では、本題です。

実験のきっかけ・目的

前回は、「重いホイール vs 軽いホイール」を擬似的に作成し、ヒルクライム対決をしました。結果、130g軽いホイールの方が、2本とも速く走りました。

一方、ホイールの実験をする更に前、自転車の総重量を300g変化させて「重い自転車 vs 軽い自転車」のヒルクライム対決をしたところ、タイム差は(殆ど)生まれませんでした。(記事と結果はこちらよりどうぞ)

2つの実験結果を一言でまとめると、以下の通りです。

  • 実験A:「ホイール(自転車)を130g軽量化すると、ヒルクライムのタイムは向上した」
  • 実験B:「自転車を300g軽量化したのに、ヒルクライムのタイムは向上しなかった」

これまで、私を含めた多くの人は「ヒルクライムのタイムと自転車の重量(軽量)は相関関係にある」と考えていました。もっと分かり易く言えば「ヒルクライムは、自転車を軽くした方が速くなる」。

ただ、上記2つの実験結果は、その考えが必ずしも正しくない可能性を示唆しています。もし「軽くした方が速い」のであれば、130g軽くした実験Aよりも、300g軽くした実験Bの方が速く走ったはずです。

以上の結果を踏まえ、私はひとつの仮説を立てました。

「自転車の軽量化」は、どこを軽くするかで効果に差があった。であれば「ホイールの軽量化」も、場所によって効果は変わるのではないか?

これを検証するのが、今回の「ハブ編」に至ったきっかけであり、実験の目的です。

実験概要・説明

今回の「ハブ編」では、A群とB群でハブに130gの重量差をつけてヒルクライムを2本ずつ走り、タイム差を比較してみました。なお、実際にホイール(ハブ)を軽くすることは出来ません。従って、片方のハブに重りを貼り付けることで擬似的に「軽量化」を再現しています。

また、重量差を130gにした理由は、各社のトップグレードホイールとセカンドグレードの総重量差が、凡そ130g程度の差だからです。以下、調査結果です。前回の記事ではシマノ・RovalMavicの重量差を確認しましたので、今回は別のメーカーを3社ピックアップしてみました。(全てディスクブレーキ用のホイールです)

フルクラム

  • Speed40 1,470g Wind40 1,620g (+150g)
  • Speed55 1,580g Wind55 1,680g (+100g)

ボントレガー

  • Aeolus RSL 37 TLR 1,325g Aeolus Pro 37 TLR 1,505g(+180g)
  • Aeolus RSL 51 TLR 1,410g  Aeolus Pro 51 TLR 1,590g(+180g)

DT Swiss

  • ARC 1100 DICUT DB 1,381g   ARC 1400 DICUT DB 1,458g(+77g)
  • PRC 1100 DICUT MON CHASSERAL 1.266g PRC 1100 DICUT(+173g)

ボントレガー(トレック)は、「松+180g」と重量差を戦略的に設定しているような気がします。この辺はアメリカブランドっぽいなぁと。逆に、フルクラムは成り行きの重量差なのかな?と思いました。DTは、PRCのラインナップがよく分かりませんでした。

 

なお、上記重量差は今回の実験のように「ハブだけの差」では無い筈です。

ただ、今回のハブ編と前回のリム編のタイム差を総合的に見ることで、各社の松ホイールと竹ホイールで発生するタイム差を、イメージ程度には数値化出来るのではないか?と考えています。なぜそんな事をするかというと、各ホイールを購入したときの効果を(少しでも)数値化するためです。

これは、本来であればやってみるのが一番なのは間違いないのですが、このために同一メーカーのホイールを松竹2set購入することは勿論出来ません。「エアロvs軽量」の時のようにレンタルする方法もありますが、記事1本書くだけの為に12,000円払うほど私はリッチな生活してません。逆に前回は、12,000円払ってでも知りたかったからやりました。

メーカーから機材をレンタル出来るメディアとは、出来る事(スケール・クオリティ)にどうしても差があります。メディアにこそ、こういった検証をやって貰いたいなぁと思います。

各種実験条件

比較対象

  • A群:Mavic CosmicSLR 45 (ハブに130gの重りを貼り付け)
  • B群:Mavic CosmicSLR 45 (そのまま)

A群は、写真のように5gの重りを12枚ずつ貼り付けました。なお、カンタンに剥がせるよう養生テープを貼った上から重りを貼っています。重量を実測した結果は、以下の通りです

前輪before

前輪after(+66g)

後輪before

後輪after(+66g)

実験に使った機材

  • フレーム:Bianchi Specialissima Disc(2021)
  • メインコンポ:Shimano Ultegra 12s
  • ホイール:Mavic CosmicSLR 45
  • タイヤ:Continental GP5000 TLR
  • チューブ:なし(Stansのシーラント)

タイヤは、前回のリム編で使ったMichelin Power Cup CL 25cから変更しています。理由は、後日GP5000 TLR vs GP5000 CL ヒルクライム対決(副題:ヒルクライムを速く走りたいとき、TLとCLどっちを使うべきか?)をやるためです。時間がある今のうちに、次の準備をしてしまいました。

実験コース

蓬莱峡(登坂距離5.10km、平均勾配6.0%)で実施。Stravaのセグメントとしては山頂の交差点がゴールですが、今回はそこから約300m手前にある信号をゴールとしています。

実験に際しての、その他条件

基本的な条件は、過去の実験と同様です。

  • AB2本ずつ計4本、Lap平均パワーが265w(4.4w/kg)になるよう登坂する。
  • 空気抵抗をなるべく揃える為、全行程をブラケットポジションのシッティングで登坂する。上ハンやダンシングはしない。
  • 風向きetc、自然現象によって発生するタイム差は考慮しない。渋滞に引っ掛かったetc明らかに減速を強いられた場合のみ、走り直す(いまのところ1回も発生していませんが)
  • パワーメーターは、「Shimano R8100P」を使用する。1本目の走行前に、メーカー指定の方法(スマホアプリ)でゼロ校正を行う。
  • 各回のスタート前に、毎回同一量の水をボトルに入れて重量を揃える。タイムにほとんど影響しないことが分かったため、本条件は除外する。
  • 走行順は、実験の都合上「ハブ重ハブ軽」の順とした。

結果

  ホイール(ハブ)重 ホイール(ハブ)軽
Lap1 16:41 / 265w 16:29 / 265w
Lap2 16:39 / 265w 16:35 / 265w

上の表が、ハブ編の結果です。参考までに、リム編の実験結果を下記に記載します。

  ホイール(リム)重 ホイール(リム)軽
Lap1 16:32 / 265w 16:20 / 265w
Lap2 16:37 / 265w 16:25 / 265w

ハブ編の平均8秒に対して、リム編は平均12秒の差が出ました。どちらも同じ「130g重いホイール」ですが、乗鞍換算でおよそ16秒程度差がつく可能性があります。

考察

前回のリム編と「タイムそのもの」を比べての考察はしません。リム編からタイヤを変更していますし、実験日が異なればタイムは多少なりとも変わるはずだからです。大事なのは「リム編とハブ編、それぞれ重いホイールと軽いホイールで発生したタイムの差」だと考えます。

  • リム編では、軽量ホイール(重りなし)130g重いホイールとのタイム差は、2本平均12秒差でした。繰り返しになりますが、乗鞍換算すると凡そ48秒差です。
  • ハブ編は、軽量ホイール(重りなし)130g重いホイールとのタイム差は、2本平均8秒差でした。乗鞍換算で凡そ32秒差です。

つまり

  • 「リム編の方が、軽量化の効果が出た

と言えると思います。従って

「ヒルクライムを速く走りたいなら、ハブよりもリムの軽量化を優先すべき」

と言えるのではないでしょうか?

現状では「コレが結論!軽量ホイールの真実!」みたいに断定するには、nが少なすぎると思います。ただ、いまのところ上記の可能性が考えます。(実験シリーズ全般に言えることですが、各ネタのnを増やす努力は今後していくつもりです)

「軽いホイール」は、「重いホイール」より遅いかもしれない?

上記結果と考察を踏まえ、この章はあくまでも「もし、仮にこういう事があったら困るよね」という話です。

なお、以下例に出すホイールの数値・金額はあくまでも仮の設定であり、その様なホイールが実在・存在し得るのかを筆者は確認しておりません事をお含み置き下さい。また、すべてリム内幅etcのサイズによる走行抵抗・空気抵抗etcは、ほぼイコールと仮定します。

どっちを買いますか?例1

  • ホイール松:総重量1,300g (リム 750g+ハブスポーク計550g)  35万円
  • ホイール竹:総重量1,400g (リム 800g+ハブスポーク計600g) 28万円

これは良くあるパターンだと思います。リム・ハブ共にAの方が軽いけど、お値段は10万円高くなります。確かにAは魅力的ですが、筆者レベルの脚力であればBでも十分高スペックに見えます。

なお、くどいようですが、数字や金額・設定はあくまで「仮」です。実際にこのようなホイールが市場に存在するのか・こんなホイールを作成できるのかは、筆者は把握できておりません。

どっちを買いますか?例2

  • メーカーA松:総重量1,260g (リム 700g+ハブスポーク計560g)  35万円
  • メーカーA竹:総重量1,350g (リム 700g+ハブスポーク計650g)  25万円

ハイエンドとセカンドグレードでリムを共通とする場合、重量の内訳はこのような構成になっているかもしれません(と、まどろっこしく書きましたが、理論上こうなっているはずです)。なお、くどいようですが(以下同)

どっちを買いますか?例3

  • メーカーB松:総重量1,300g (リム 750g+ハブスポーク計550g)  35万円
  • メーカーA松:総重量1,395g (リム 850g+ハブスポーク計545g)  28万円
  • メーカーB竹:総重量1,430g (リム 750g +ハブスポーク計680g)  23万円

今までの感覚であれば、「Bの松は予算オーバーだけど、ホイールは最大限頑張って軽いモノを」と、5万円高くても「メーカーAの松」を買うかもしれません。

ところが、2回の実験の結果を踏まえると、ヒルクライムのタイムは「Aの松」と「メーカーBの竹」はほぼ同じ、場合によってはBの竹の方が速い可能性があります。なお、くどいようですが(以下同)

 

上記3例はいずれも「今までなら問答無用で軽いホイールを選んだけど、もしこの内訳だったら迷いそうだな」という数字・設定を適当に当ててみました。特に、2や3の例は迷う人もいるのでは無いでしょうか?

いずれの選択肢も、どちらを選ぶかに正解は無いし、人それぞれだと思います(そもそも設定が仮ですし)

 

この章では、話を分かり易くするためにホイールの価値を「総重量と重量構成比・価格」絞って話を進めました。

ただ、「ホイールの価値」は上記以外にも、巡行性能・掛かりの良さ・ベアリングの性能・空力性能・剛性・重量・価格・入手性・メンテナンス性・補修部品の供給状況・故障のしにくさ・雨()への強さetc、列挙すればキリがありません。

最終的には、これらを総合的に考慮して購入されるのが良いと思います。ただ「ホイールの総重量とリム重量の関係についてユーザー側が知識を得ることによって、今までとは違う選択ができるかもしれません」というお話でした。

まとめ どちらも軽いに越したことは無いが…

ヒルクライムを速く走りたければ、ホイールは軽い方がよい。その上で「ハブとリムであれば、リムを軽量化すべき」というのが、本記事の暫定解です。

ただ、ホイールを購入した後にリムを軽量化する事は出来ません。従って、購入する段階でなるべくリムの軽い製品を選ぶのが良いと思います。

 

 

どうやって?

 

そこです。

現状の販売システムでは、各製品のリム重量を確認する方法が(殆ど)ありません。十万円近くの価格差があって、乗鞍換算で16秒近く変わる可能性がある数値が公にされていない現状は、ユーザーにとって不利なシステムだと思います。

ロードバイクの機材は、現時点でも各メーカー似たり寄ったりの性能になっているように感じます。今後は、何か革新的な開発etcがなければ、前モデルからの改善幅も小さくなっていくかもしれません。

自社製品の前モデルや他社製品に対して絶対的な性能差を示すことが難しくなってきている現状、例えばリム重量を公表するetcメーカーによっては別の販促アプローチがあっても良いのでは?と個人的には感じました。多くのメーカーが公表していないのは、メーカーとして公表しない・出来ない何かしらの理由があるのかとは想像しますが。

この投稿が、読まれた方のホイール選択の参考になれば幸いです。といつもなら結ぶところですが、リム重量が公になっていない現状、参考になる箇所は限られそうです。

れでも、この結果を頭の片隅にでも置いておけば、いつか役に立つことがあるかもしれません。なお、本ブログは基本的に「〇〇を買うべき!」のような、キャッチーで分かり易い結論を書くつもりはありません。それは読んだ方の判断にお任せします。

それを踏まえて私見を述べるとすれば、私はリムの軽さが大事かな?と考えます。

数字を上手に使う人・メーカーであれば「リムの軽量化は、ハブの軽量化より1.5倍効果がある!」みたいな事を言うのかもしれません。


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