ヒルクライムレースを頑張りたい勢の私にとって、足回りの軽量化は非常に気になる項目のひとつです。「足回り」とは、具体的にいうとホイールやタイヤ、チューブ等の部品です。これらを軽量の製品に交換する事で、ヒルクライムのタイムを短縮することができます。
今回の実験テーマは、前回に続き、近年?頭角を現してきたTPU(ポリウレタン)チューブです。本ブログをご覧の方はご存じの通りだと思いますが、TPUチューブはどの製品も非常に軽量です。既存のゴムチューブで、TPUチューブよりも軽量な製品を探すのは非常に困難。つまり、多くの場合「TPUチューブ」換えるだけで軽量化に繋がります。
ということは、既存のブチルチューブをTPUチューブに交換すると、ヒルクライムのタイムを短縮出来る筈。
これを、「実際に走って確かめてみました」の第二弾です。なお、第一弾はラテックスチューブとTPUのタイム差比較でした。
結果を先に記載します。
TPU | 軽量ブチル | |
Lap1 | 265w / 12:48 | 265w / 12:48 |
Lap2 | 265w / 12:51 | 265w / 12:48 |
「距離4.42km・平均勾配5.4%の峠」で、パワーを一定にヒルクライムしたところ、TPUチューブと軽量ブチルチューブでタイム差はほとんど生まれなかった。今回のコースは仮想富士ヒルを想定していたが、「どちらのチューブが有利」といえるような差は無いと考えられる。
以上の結果が出ました。
TPUチューブとは
ほとんどの方が「TPUチューブvs ラテックスチューブ編」とセットで読まれると思いますので、一部内容を変更してお送りします。TPUチューブの特徴・メリットデメリット詳細は、前の記事をご覧ください。
TPUチューブの特性を一言でいえば、「非常に軽量且つ理論上速い(らしい)けど、取り扱いがちょっと面倒くさい」チューブです。個人的には、TPUという素材の特性が原因と思われる、バルブ周りのトラブル報告が気になります。これは、メーカーの知見が蓄積されれば今後改善されていくのでしょうか?
ここまでが、前回のおさらいです。以下は、新規ネタ。
現状「TPUチューブ」という呼び名が市民権を得ている印象ですが、これは商品名ではなく製品群の名称です。括りとしては、既存の「ブチルチューブ・ラテックスチューブ」という2本柱に、「TPUチューブ」が追加されたイメージでしょうか。これが3本目の柱になるのか、ブチル・ラテックスどちらも好まないマニア向けの選択肢になるのかは、今後注目すべきところです。
つまり「TPUチューブ」とひとことで言っても、軽量なモノ・高価なモノetc各社が特徴を持った製品を販売しています。
ただ、TPUチューブはピレリのような大手メーカーの製品もあれば、アリエクスプレスで購入できるような無名の格安製品まで、様々な選択肢があります。いや、むしろ本製品が発売になるまでは、前者の高額な製品or後者の格安製品という「極端な2択」という印象がありました。
前者の製品群は、非常に高額です。例えばチューボリートのTPUチューブは、2023年6月現在重い方(38g)のレギュラー品で、4,730円~。軽量モデル(23g)に至っては、5,280円~です(バルブ長で値段が違う)。
理論上速い(らしい)とはいえ、高額とされるラテックスチューブのほぼ2倍のお値段。お試しで手を出すには、ちょっと躊躇する金額です。
一方、後者の格安品は、私に目利きのスキルが無いため手を出していませんでした。SNSを見る限り、「ピンクのチューブ」とかはそれなりに使えるようですが。
そして、両者に共通する問題として、SNS上で空気漏れのトラブル報告が散見されたのも気になりました。ラテックス編の記事内でも言及しましたが、樹脂バルブと金属バルブコアの相性が悪いのか、単に個体差が大きいだけなのかはよく分かりませんが。
と言うことで、仮に理論上速いとはいえ、パンク・エア漏れが頻発するようではそもそもチューブとして失格です。このような経緯があり、価格と製品クオリティ上の懸念から、個人的にはTPUチューブを試していませんでした。
Magene EXAR TPUチューブについて
2023年5月に、Growtac社からMagene EXAR TPUチューブが発売になりました。今回、本製品が発売されたので、初めてTPUチューブに手を出してみた次第です。
ネックだったお値段は、1本1,600円。既存のブチルチューブとほぼ同じで、多くのラテックスチューブ製品よりはお求めやすい価格設定です。
もう一つの懸念である品質に関して。
こちらは、筆者では良し悪しは分かりかねます。ただ、本製品の輸入代理店は、EQUALを作ったGrowtacです。彼らが合格を出した(取り扱いを決めた)製品であれば、安心して使うことが出来ると判断しました。彼らとしても、いろいろな製品を吟味した上でどの製品を自社で取り扱うか選定したはずです。それを考えれば、彼らが安かろう悪かろうな粗悪品を取り扱うメリットが無いでしょう。
そして、この製品はリムブレーキのカーボンホイールにも使用可能です。筆者は、ヒルクライムレース本番はリムブレーキのバイクを使う予定にしているので、これはありがたい。
このような事情もあり、TPUチューブを試してみるには非常に良い選択肢が出てきたと思います。
なお、インプレetcは別途記事誌にする予定です。
実験のきっかけ
こちらも、基本的には「TPUチューブvs ラテックスチューブ編」と同様ですので詳細は割愛します。
足回りを軽量化するのであれば、TPUチューブ+CLタイヤは非常に有効な選択肢です。
そして、前述したとおり、TPUチューブ (軽量チューブ) 市場にGrowtac社のMagene EXAR TPUチューブという選択肢が現れました。このお値段でGrowtac社が取り扱うとなれば、お試しするには申し分ありません。
対抗馬は、軽量ブチルチューブのMAXXIS Fly Weightチューブです。カタログ重量は45g。重量はTPUチューブにこそ及びませんが、非常に軽量なチューブのひとつです。なお、本製品はブチルチューブですので、カーボンホイールを履いたリムブレーキ車にも使うことができます。
ということで、「TPU vs ラテックス」に次ぐ第2回は「TPU vs 軽量ブチルチューブ」です
結果は、冒頭に記載したとおりです。
各種実験条件
比較対象チューブ
- Magene EXAR TPUチューブ バルブ長75mm
- MAXXIS Fly Weightチューブ バルブ長60mm
実測重量は下記の通りでした。
なお、Maxxisの片方を計測し忘れました、すみません。
実験機材
- フレーム:Trek EmondaSLR 2018 リムブレーキ
- 車重:6.6kg(メーター・ペダル込み)
- ホイール:Roval CLX50
- タイヤ:Continental GrandPrix5000 CL 25c
- メインコンポ:Sram Etap11s
実験コース
勝尾寺ヒルクライム(平均勾配5.4%、登坂距離4.42km)
実験に際しての、その他条件
基本的な条件は、「エモンダ vs スペシャリッシマ」と同様です。
- 空気圧は、どちらも5.0とした。
- 両チューブで2本ずつ計4本、すべてLap平均パワーが265w(約4.5w/kg)になるよう登坂する。
- 空気抵抗が同じになるよう、全てブラケットポジションのシッティングで登坂する。上ハンやダンシングはしない。
- 各回の風向き・気温上昇に伴う気圧変化etcは、私にコントロール出来ないので考慮しない。
- パワーソースは、「Assioma Duo」を使用する。当日の走行前に、メーカー指定の方法(スマホアプリ)でゼロ校正を行う。
- 各チューブの登坂前に、ボトルを満タンにした。飲水は、登坂後orダウンヒル中に実施。
- 登坂2本目は、1本目の下山後直ぐUターンして実施した。
結果
TPU | 軽量ブチル | |
Lap1 | 265w / 12:48 | 265w / 12:48 |
Lap2 | 265w / 12:51 | 265w / 12:48 |
気持ちブチルチューブの方が速いタイムですが、ほとんど差は無いといって良いと思います。
考察・感想
筆者は、TPUチューブの方が軽いのでTPUチューブの方が良いタイムを出すと予想していました。ただ、これは実験中の話であり、一連の実験をする前は、「ラテックスが最速・次点でTPUとブチルどっちかな?」と予想していました。
なお、実験当日は「ラテックス→軽量ブチル→TPU」の順で走行しています。TPUが最速だと予想したのは、軽量ブチルチューブがラテックスのタイムを大幅に上回った時点からです。やはり「足回りの軽量化は正義だ」と思ったのです。
ところが、TPUチューブに交換しても、更に速くとはなりませんでした。
考えられる理由
ほとんどタイム差が生まれなかった理由。以下、私が考えた原因です。物理的・理論的に正しいかどうかは吟味していません、アイディア出しレベルですので、思いつくモノを列挙しています。
- TPUチューブの設定空気圧が高すぎた
- 軽いチューブに最適なペダリングが出来なかった
- TPUチューブの走行抵抗がブチルチューブより大きく、重量メリット分が相殺された
- チューブ軽量化の効果は、軽量になるほど薄れる。例えば同じ30gの軽量化でも、50g→20gの効果と80g→50gの効果は異なる?(これは無さそう)
- TPU走行時、風向きが悪かった(筆者の体感ベースでは、そうは思いませんが)
空気圧に関しては、ブチルチューブと同じ5.0では高すぎたかもしれません。ただ一方で、こちらで実験したとおり、短時間のヒルクライムであれば高圧低圧でタイム差はほとんど発生しませんでした。
個人的には、ペダリングか走行抵抗が影響したのかな?と考えています。加えて、軽量ブチルからTPUは、軽量化されたとはいえ前後輪計30gです。交換前後で、差を体感出来るものではありませんでした。「ラテックス→軽量ブチル(60g軽量化)」の時は、変化を感じたのですが。コントラストの原理が働いたかは、分かりません。
まとめ
今回の結果だけを見ると、既存の軽量ブチルチューブでも十分に速いと判断する方はいらっしゃると思います。
正直に言えば、筆者もそちら側です。個人的には実験全般を通じて、既存の軽量ブチルチューブの良さを再確認しました。ラテックスは、乗り味が良く速い。TPUは、乗り味は悪いけど速い。ブチルは、どっちつかずの中途半端な製品に成り下がった。このように考えていましたが、そうではないと。
ただ、軽量ブチルチューブには、これ以上の「飛び道具」は恐らく有りません。一方TPUチューブは、市場にはもっと軽い製品が幾つか存在しています。これらを使ったとき、どのような結果になるかは興味深い所です。
一連の結果が、読まれた方の機材選択の参考になれば幸いです。