先日、グロータック社より発売された、MageneのEXAR TPUチューブを購入しました。
この記事では、本製品で数回走行してみての、ファーストインプレッションを記載します。
MageneのEXAR TPUチューブを筆者なりに一言で表現すると「日常使いできる決戦用機材」でしょうか。
- 交換前のチューブにも依るが、漕ぎ出しの軽さは感じます。
- 平坦巡行中は、違いを感じ取るのは難しいです。
- ヒルクライムでは、軽さの分有利に働く場面は多いように思います。
- 乗り心地については、懸念したほどは悪くありませんでした。レース一発だけで無く、普段のサイクリングでも十分に使えると判断しました。ただ、好みは分かれると思います。
- コーナリングを含めた峠のダウンヒルでは、決定的なメリットデメリットは無いと感じました。
これら特徴を踏まえて「日常使いできる決戦用機材」と判断しました。なお、現時点ではパンク耐性やチューブ・バルブの耐久性、初期不良率※は判断不能です。
※参考までに、n=2ではありますが、問題無く使用出来ています。不良品混入・取り付けミスの保険として計3本購入しましたが、今のところ3本目は使わずに済んでいます。
TPUチューブについて
これまで、CLタイヤのチューブといえば「ブチルチューブ」「ラテックスチューブ」の2択でした。
ところが近年、第3の選択肢として「TPUチューブ」という製品が出てきました。既存のチューブとは違い、樹脂素材で作られています。TPUチューブは、私が知る範囲の話になりますが、2020年頃に発表されたチューボリートとレボループがひとつの転機だったと認識しています。
当初のフレコミは「重量は、ブチルチューブの半分以下。耐パンク性能は、ブチルチューブの2倍。転がり抵抗は、ラテックスチューブと遜色ない」。
ホンマかいな?というこの謳い文句を鵜呑みにするのであれば、ブチルチューブとラテックスチューブのいいとこ取りです。その代わり、非常に高価。
なお、現状「TPUチューブ」という呼び名が市民権を得ている印象ですが、これは商品名ではなく製品群の名称です。
市場には「各メーカーのブチルチューブ・ラテックスチューブ」があり、そこに「TPUチューブ」が追加されたといえば、イメージし易いでしょうか。これが、ブチルとラテックスに次ぐ3本目の柱となるか、ブチル・ラテックスどちらも好まないマニア向けの選択肢になるのかは、今後気になるところです。
TPUチューブの特徴・メリットデメリット
TPUチューブのメリットとデメリットを、筆者なりにざっくりまとめます。
メリット
- 従来のゴム製チューブより、大幅に軽量化出来る
- 従来のチューブより、小さく折りたたむ事が出来る
- ラテックスよりは、空気が抜けにくい。ブチル比だと、トントン?(諸説あり)
- 従来のチューブより、異物突き刺しの耐パンク性能に勝る(らしい)
- 計測器上では、転がり抵抗はラテックスチューブやTLRとトントン(らしい)
デメリット
- 従来のゴム製チューブと比べて、非常に高価
- パンク修理(パッチ貼り付け修理)は、TPU専用のキットが必要
- 1度タイヤから取り出すと、再取り付けが難しい。(一度空気を入れて伸びると、再収縮しないため)
- 耐熱性の都合上、リムブレーキのホイールには使えない製品がある。
- バルブ本体部分まで樹脂製の製品が多いため、バルブが折れやすい(らしい)
- 樹脂のバルブ本体に金属のバルブコアを取り付けるため、エア漏れetcの問題が起こりやすい(らしい)
- 成形の都合上、素材が2重になる部分が発生する。結果、その周囲がパンクの原因になる(かも)
- 乗り心地は、従来のゴムチューブより悪くなる(らしい)
- 従来のゴムチューブより振動吸収性が悪いため、凹凸のある路面では(理論上は)跳ねて遅くなる(らしい)
抜け漏れはあるかもしれませんが、大筋でこのような特徴があります。なお、製品によっては当てはまらない項目もあります。後述しますが、MageneのEXAR TPUチューブはリムブレーキ車にも使用可能です。
TPUチューブをざっくり一言でいうと「理論上軽くて速いけど、高くて取り扱いがちょっと面倒くさいチューブ」です。MageneのEXAR TPUチューブは、そこからコストが抑えられた印象です。
Magene EXAR TPUチューブについて
筆者も前々から気になっていたTPUチューブですが、今回本製品が発売されたことで初めて手を出してみました。
というのも、TPUチューブはピレリのような大手メーカーの製品もあれば、アリーエクスプレスで購入できるような無名の格安製品まで、様々な選択肢があります。いや、むしろ本製品が発売になるまでは、前者の高額な製品or後者の格安製品という「極端な2択」という印象がありました。
前者の製品群は、非常に高額です。例えばチューボリートのTPUチューブは、重い方(38g)のレギュラー品で、4,730円~。軽量モデル(23g)に至っては、5,280円~です(バルブ長で値段が違う)。
理論上速い(らしい)とはいえ、ラテックスチューブのほぼ2倍のお値段。お試しで手を出すには、ちょっと躊躇する金額です。一方、後者の格安品は、私に目利きのスキルが無いため手を出していませんでした。SNSを見る限り、「ピンクのチューブ」とかはそれなりに使えるようですが。
そして、両者に共通する問題として、SNS上で空気漏れのトラブル報告が散見されたのも気になりました。仮に理論上速いとはいえ、パンク・エア漏れが頻発するようでは、そもそもチューブとして失格です。結局、価格と製品クオリティ上の懸念から、個人的にはTPUチューブを試していませんでした。
ところが、2023年5月に、グロータック社からMagene EXAR TPUチューブが発売になりました。
ネックだったお値段は、税込1本1,600円弱。既存のブチルチューブと同等で、多くのラテックスチューブ製品よりはお求めやすい価格設定です。
もう一つの懸念だった品質に関して。
こちらは、正直なところ筆者では良し悪しは分かりかねます。ただ、本製品の輸入代理店は、あのEQUALを作ったグロータックです。彼らが取り扱いを決めた製品であれば、安心して使うことが出来るだろうと判断しました。立場的に、彼らが粗悪な製品を取り扱うメリットが無いでしょう。
その意味でも、TPUチューブを試してみるには非常に良い選択肢が出てきたと思います。
重量実測値
カタログ値36gに対して、36.3、36.7、37.3gでした(輪ゴム込み)。バルブ長は、全て75mmです。
取り付け
初期不良の確認
取り付けの前に、初期不良が無いかを確認します。説明書には
“初期不良の確認のため、本製品を使用する前に0.5bar/8psi以下の空気を入れ、水の中に入れるなどし、空気漏れがないことを確認してください。装着後は保証対象外になりますので、ご注意ください。”
との記載が有ります。
浴槽で確認しました。3本とも、初期不良は無さそうです。
タイヤ(ホイール)への取り付け
ホイールは、リムブレーキのRoval CLX50(リム内幅20.7mm)。タイヤは、コンチネンタルのGrand Prix5000 CL 25cです。なお、取り付け前にエアをごく少量しか入れることが出来ない都合上
- タイヤ内部でチューブが捻れないように注意する必要がある。
- 噛み込みしやすくなるので、タイヤ取り付け後の確認は必須(TPUチューブに限らずですが一応)
以上2点は、特に注意して作業する必要があります。ただ、既存のチューブを交換できるスキルが有れば、特に変わりは無いようにも思います。
筆者は、タイヤ取り付けの最後にタイヤレバーも使いましたが、こちらも特に問題は起こりませんでした。
なお、本製品はバルブコアの取り外しはできません(説明書にも、その旨記載あり)。参考までに、バルブ長75mmのチューブを50mmハイトのホイールに取り付けると、こんな感じです。
バルブ長は、先端の金属部分を除いた黒い部分が75mmあります。このホイールであれば、バルブ長60mmの方が合いそうです(75mmが先行販売されたので、筆者はそちらを買ってしまいました)。
空気の補充について
説明書には
”空気を入れるときは、ハンドポンプをご使用ください。エアコンプレッサーなどの高速空気注入器具の使用はお勧めしません。”
との記載があります。筆者はエアーコンプレッサーやCO2ボンベを使っていませんが、使われる方は注意が必要です。また、バルブ本体は樹脂性のように見えます。金属バルブよりは弱いと思われます、折れや曲がりには注意した方が良さそうです。自分が使っているから推すわけではありませんが、出来ればHIRAME横のようなポンプヘッドが望ましいと思います。
なお、試走3日後に空気圧を再度確認した所、0.2気圧程度減っていました。ラテックスチューブよりも空気保持性は高いようです。
走行感について
タイヤとホイールは、前述の通りです。空気圧は、
- 初回5.0
- 2回目4.7
- 3回目4.4
としました。上記の設定にした理由は、乗り味の項で後述します。
以下、筆者と検証機材のスペックですが
- 174cm/59kg 脚質ルーラー系 PWR4.5w/kg程度
- バイク:EmondaSLR 2018 (リムブレーキ)
- ホイール:Roval CLX50
- タイヤ:コンチネンタル Grand Prix5000 CL 25c
1日で「ヴィットリアラテックスチューブ・MAXXIS Fly Weightチューブ・Magene EXAR TPUチューブ」と順番に履き替えて試走(という名の実験)をしています。
ゼロ発進の漕ぎ出し
これは、軽くなった事を実感出来ます。ただ、MAXXIS Fly Weightチューブのような軽量チューブから交換した場合、その差は僅かだと思いました。
筆者は同日に「ラテックスチューブ・軽量ブチルチューブ・Magene EXAR TPUチューブ」と履き替えて試走(という名の実験)しています。それを踏まえて、後者2つの差は極小というのが率直な感想です。目隠ししてゼロ発進を繰り返したら、軽量ブチルチューブと優劣をつけるのは難しいのではないでしょうか? (乗り味が違うので、区別はつくと思います)
平坦巡行・直線のダウンヒル
チューブを交換したことによる、特筆すべきメリットデメリットは分かりませんでした。スピードが伸びやすいetcは、特に感じませんでした。
乗り味に関しては、ラフな路面を走ると8Bar・23c時代を思い出すような乗り味になります。後述しますが、これは空気圧の調整でコントロールする必要があると感じました。
ヒルクライム
ゼロ発進の漕ぎ出し同様、非常に軽くなります。また、ダンシングでペースアップをする際にも、一踏み目の軽さを実感できます。
特に、緩斜面から急斜面へ勾配が変化するとき、軽量チューブよりも失速しにくいような印象を受けました。実験とは別日に、普段トレーニングで走る六甲山東ルートでも走行しましたが、下り勾配からの上り返しの区間でも、失速度合いが他のチューブより少ない印象がありました。
逆に、「実験」のように一定勾配を淡々とペース走する分には、軽量チューブとの違いは殆ど分かりませんでした。
個人的には、尾根幹のようなアップダウンを繰り返すコースでのロードレースや、伊吹山ヒルクライムのような勾配変化の大きいヒルクライムレースでは是非使いたいと思いました。
乗り味
筆者の体重は59kg、バイク重量6.6kgでの感想です。
既存のゴムチューブと比較して、走行感は乾いた感じになります。ヴィットリアやミシュランのタイヤが好きな人は、好みではない方向性だと思います。
そして、空気圧と走行感について。
空気圧を、普段使用するラテックスチューブの時と同じ5.0にすると、走行感は非常に悪くなります。感覚的には、10年前のロードバイクに乗っているようでした。
2回目の走行時は、4.7に。5.0の時と比べると劇的に改善されましたが、まだトゲトゲしさは残ります。
3回目は、「良い感じ」になるまで「走る→落とす」繰り返しました。帰宅後空気圧をどこまで落としたか計測すると、4.4でした。なお、ここからどこまで落としても問題ないのかは、まだ試していません。
と言うことで結論。ラテックスや軽量ブチルチューブと同じ空気圧だと、かなり乗り味は悪くなる印象です。筆者の場合、TLRと同じくらいまで落とすと快適に走行出来ると感じました。
ただ、この低圧運用は注意が必要です。タイヤが推奨する空気圧の範囲(GrandPrix5000の場合最低6.5~)を、大幅に下回った空気圧での運用になってしまいます。空気圧を落とせば快適に走行出来たのは「事実」としてお伝えしますが、この方法をブログ記事で「推奨」出来るのかは、正直悩ましいところです。
空気圧を落としすぎれば、最悪の場合タイヤが外れて落車や事故に繋がる恐れがあります。これは、明確に記載しておきたいと思います。そもそも、初手の5.0の時点で推奨空気圧を大幅に下回っているので、何を以て最低とするかの判断は難しい所ですが。
そして、個人的な好みの話をすると、ラテックスチューブや軽量ブチルチューブの方が好きです。峠のタイムetc関係無いサイクリングでも十分使用可能な範疇だと感じましたが、積極的にTPUチューブを使いたいか?と問われると、そこは正直Noです。
コーナリング・峠のダウンヒル
乗り味の項でも記載しましたが、ゴムチューブのようなモチッと感が減ります。これは、コーナリングでも同様です。コーナリングやダウンヒルを得意としない筆者は、既存のゴムチューブの方が、路面を捉えている感があって好みです。
ただ、こちらも空気圧でかなり印象は変わります。チューブへの慣れの問題もあると思います。数回の使用で、一概に「本製品を含めたTPUチューブはダウンヒルしにくい」とまでは言えないかな?と思いました。
積極的に選ぶ理由は無いけど、極端なネガティブ要素も無い、という感じでしょうか。
オススメしたいかどうか
足回りを少しでも軽量化したい人。
これに当てはまる人には、お勧めです。各所で散々言われているとおり、昨今のロードバイクはディスク化に伴い重くなってしまいました。7kg前半のバイクを組もうと思ったら、非常にコストが掛かります。
スペシャリッシマの軽量化記事でも記載していますが、最終的には数10g軽量化する為に万単位のコストが必要になります。それを踏まえると、税込み3,000円強で「足回りを」数10g軽量化できる本製品は、非常に魅力的です。
逆に、リムブレーキモデルやディスクブレーキ車でも既に軽量化されたバイクに乗っている方には、さほどメリットがないかもしれません。
まとめ
冒頭の繰り返しになりますが、MageneのEXAR TPUチューブを一言で表現すると、「常用できるヒルクライムレース決戦機材」だと感じました。
登坂中の軽快感は、非常に素晴らしいモノがあります。踏み直したときのひと踏み目が軽いので、勾配変化の大きいコースや、ペースの上げ下げを要求されるシチュエーションの方が、相性は良いように思います。
なお、こちらで実験した限りではありますが、ヒルクライムにおいて軽量ブチルチューブとタイム差は生まれませんでした。ただ、インターバル的な走りは、Magene EXAR TPUチューブに分がある印象です。
また、メーカー側の謳い文句を信じるのであれば、耐パンク性も良いようです。筆者は、耐パンク性は測定していない(出来ない)ので、なにか客観的に優位性が分かると使いやすいのかな?と思います。
一方で、軽量ブチルチューブと比較したときに「絶対的にコレで無ければ」という特徴は、やや弱いように感じました。足回りは軽くなりますが、バルブ周りの耐久性etcを犠牲にするほどの価値があるのかは、現時点では判断しかねます。
それでも、既存のTPUチューブ各製品と比較して、お試ししやすい金額設定です。自分の好みを確認するという意味でも、試してみる価値は十分にある製品だと感じました。
この投稿が、読まれた方の機材選択の一助になれば幸いです。
2023.7.25追記
こちらの記事にて書きましたが、レース中に残念ながらパンクに遭ってしまいました。
空気圧を4.5barまで落としたのが災いしたのか、リム内パンクです。
ファーストインプレッションとしては、「ある程度空気圧を落として、乗り味を加減した方が良い」と記載しましたが、過度な低圧運用はパンクを招きかねないので注意が必要です。