前回の記事で、“最近SNSやネット記事では、頻繁にグラベルロードに関する投稿・記事を目にするようになりました”と書きました。
ところが、グラベルロードについて調べていくうちに、ある事に気がつきました。それは
「グラベルバイクについて、ショップ発信の記事があまり見当たらない(ように見える)」ということ。
今回は、この理由について考えてみました。
ショップ発信の記事は本当に少ないのか
某北米メーカーT社のショップブログページをみると、直営店各店の記事が出てきます。2023年1月までは遡りましたが、グラベルバイクに関する記事は3つ程度しかないことが分かります(余談ですが、これショップ単位か記事のテーマでフィルター掛けられる設定にして欲しいですね)。
次に、某イタリアメーカーのB社。こちらは新着ニュースといいつつ各店の在庫情報がメインで、自転車の紹介がそもそも皆無でした。イベントのページも、2023年で止まっています。
また、スポーツバイク大手販売店Y社のショップ記事一覧。こちらも、グラベルバイクについての記載は極僅か。
その他、試しに「グラベルロード」とか「グラベルバイクのモデル名」でGoogle検索してみて貰えば分かります。各メーカー・輸入代理店の商品ページや大手メディアの記事、個人ブログが上位に並ぶと思います。
これがロードバイクであれば、各メーカーの新モデルが発売されると取扱販売店からも記事が怒濤のように発信されます。要するに「新型○○出ました。試乗会があったので乗ってきました、凄く良いです。近日中に入荷予定です、是非当店にお越し下さい」って事ですね。ショップスタッフが(社割で)実際に購入して、使用感を長期目線でレビューしている記事も多数見受けられます。
ところが、この手の記事がグラベルロードになると途端に減ってしまう印象です。あったとしても「入荷しました。以下メーカーカタログコピペ」が大半。良くて「関係者向け試乗会で試乗してきました」まで。
その製品を実際に一定期間使ってレビューされた投稿は、非常に少ないように感じました。キャニオンの車体に関しては、ショップのレビュー記事が無い意味は理解出来るのですが。
現在進行形で発展途上だからこそ記事の絶対数が少ないのは理解できるのですが、メディア発の記事数と比べるとショップ発のそれは極端に少ない感じがします。
グラベルイベントに関連する発信も少ない
最近は減り傾向なのかもしれませんが、ショップは自店で自転車を購入した人向けに走行会をやっています。ただ、この走行会イベントも「ロードバイク・クロスバイク・MTB向け」ばかりで、グラベルロード向けは殆ど見当たりませんでした。
また、ショップによっては「みんなでシマノ鈴鹿に行きましょう」「富士ヒル頑張りましょう」のような企画をしているショップも見受けられます。MTB系のショップだと、富士見パノラマや大滝に行くイベントを企画されているお店もありました。ただ、「ニセコグラベル一緒に行きませんか?」というショップは、(筆者が探した限り)見当たりません。
ショップがグラベル推しじゃない理由を考える
昨今B to Cが発達してきているとは言え、実店舗で自転車を買う人の方がまだまだ多いはずです。また、グラベルバイクは何にでも使えるが故に、逆にどう遊んで良いか分かりにくい部分もあります。だからこそ、エンドユーザーに最も近いショップスタッフの情報は、参考になる部分が沢山あるはず。
にも関わらず、店舗からはグラベルロードに対する発信は少ない。
次は、この理由を考えてみました。
仮説1 メシの種だから、グラベルに関する情報は公開したくない
可能性として、多いに考えられます。
前回、「どこにどれくらい走る場所が分からない。だからこそ、自店舗近隣のグラベル情報はそのショップの武器になるのではないか?」と書きました。
様々な情報を、一瞬のうちに無料で全世界に発信できてしまう時代です。であれば、価値のある情報は、不特定多数の人間に簡単には渡したくない筈。せっかく苦労して手に入れた情報を、見ず知らずの人にスマホ一つで簡単に全世界に公開されたくない気持ちは分かります。
「そのショップ近隣のグラベル事情は、自店で自転車を購入した人だけにお客様特権としてお伝えする。だから、ショップとして積極的にはグラベル(バイク含む)に関する情報は出さない」というやり方は、あり得ると思っています。筆者が知らないだけで、ショップの店舗内ではグラベルロードイベントも開催されているのかもしれません。
また、「自分たちの遊び場を不特定多数の他人に荒らされたくない」という心理も、理解出来る話です。
仮説2 グラベルロードはショップに旨みが少ない
グラベルロードよりロードバイクetcの利益率が高い為、販売店としてはロードバイクに注力したいという説。
筆者は「向こう側」の人間ではありませんので、車体別の下代なぞ知る由もありません。正直、妄想レベルの仮説ではあります。ただ、根拠が全くない訳ではありません。
仮説2が成立するかも?と考えた理由は、客単価です。
ロードバイクの場合、フレームだけで50万円を超えるようなハイエンドバイクの購入投稿を定期的に目にします。私のTLが異常者だらけという説は否定出来ませんが、知り合いの知り合いetc含めれば、それなりにロードバイクのハイエンド車体は目にします。
一方のグラベルロード、かなり熱心に乗られている(ように見える)方でも、ミドルグレード帯が中心。ハイエンド帯のグラベルロードを乗り倒している方って、ほぼ見つかりません。ゼロではありませんが、ロードバイクのそれと比較すれば大幅に少ない事は肌感でも感じる所だと思います。
昨今のロードバイク、ハイエンド帯は1台150万円を優に超えます。これがグラベルロードになると、ミドル帯でざっくり40万円程度でしょうか。
ショップから見ればこの金額差、仮に「1台売れた」として売上額には4倍近くの差があります。
メーカー(代理店)に発注→開梱&検品→全バラし(やらない店もあるかも)→再組み立て→各種調整→納車
ユーザーから自転車の注文を受けてから納車までのこれら一連の作業、40万の車体が150万円のそれの1/4で済むとは思えません。確かに、バラし後再組み立ての手間は、ワイヤー内装化有無によってかなり差がつきそうです。ただ、発注時の事務作業や組み立て後の各種調整作業、納車説明や支払い関係の作業は、価格帯に関わらず全く同じ手間が発生します。
グラベルロードの場合、ロードバイクよりもハンドルバッグetc小物をセットで販売すれば稼げるかもしれません。
ただ、ご承知の通り現在グラベルロードを嗜まれている方は、自転車趣味に頭のてっぺんまで浸かった人がメイン。ショップに「このバイクにはこの小物を合わせるのがオススメです」と言われて、勧められるがままに買う人は少数と想像します。
店として仮に売り上げを200万円上げる必要がある場合、ロードバイクなら上記作業の他に50万のバイクを1台売れば200万円達成です。これがグラベルバイクになると、5回繰り返す必要があります。
仮に自分がショップのスタッフだとして、どっちを売りたいですか?私ならロードバイクを売りたいです。
無論、上記は分かり易いようにあえて極端な設定にしていますし、実際にはエントリー帯も売らなければいけないとは思います。
仮説3 ショップ側も、グラベルロードの推し方を模索中
グラベルロードを所有して楽しまれている記事を読むと、宿泊を伴うツーリングに使われている記事を結構な頻度で目にします。グラベルロードは積載量を確保しやすい車体も多く、バイクと用途が非常にマッチしているように見えます。
ただ、殊更に「宿泊ツーリングに向いています!」と強調してしまうと、筆者のように宿泊ツーリングは考えていない人の興味を削ぐリスクがあります。宿泊ツーリングに向いているという側面もありますが、グラベルロードの良さはそれだけでは無い筈です。
幅広いタイヤを取り付ける事で得られる走破性は、時に歩道も走る可能性がある通勤時に向くかもしれません。都心部を中心にサイクリングするなら、ロードバイクよりもグラベルロードの方が扱いやすいかもしれません。グラベルイベントに参加したければ、グラベルロードが最適でしょう。
このように、グラベルバイクは用途が多岐にわたるからこそ、ショップとしてもどこを推して良いのか模索中なのかもしれません。
「1台で色々出来る」は、逆にいえば中途半端です。何にでも白黒つけたがるこの時代に、この特徴はマッチしないのかもしれません。
ただ、スポーツバイクの楽しみ方が固まっていない、特にスポーツバイク1台目を購入する人にとっては、グラベルバイクの特性は非常にメリットになる気がしました。
仮説4 メディアとショップは役割が違うから
メディアとショップでは、発信する情報の要素が異なります。大まかなイメージとして
- メディア:読者層は全国にいる不特定多数。幅広い情報を総論的・俯瞰的に発信する必要がある。
- ショップ:地域のエンドユーザーとの接点という側面を持つ。総論も必要ではあるが、その地域に住む顧客を想定した情報発信を求められる。
不特定多数に向けて情報発信するメディアに対して、自分たちの商圏にいる顧客に向けて情報発信するショップ。どちらが良い悪いという話ではなく、求められる役割が異なるため発信内容も異なるという事です。
たとえば、沖縄で海開きのニュース。全国ネットがサラっと報じる事はあっても、それを東北や北海道のローカル局が事細かに報じる意味はありません。逆に、東京で最近流行っている飲食店の情報を全国ネットで大々的に特集を組まれた所で、8,000万人以上の人間には関係ありません。
コレと同じです。
自転車に関する情報発信という意味では、雑誌やメディアは全国ネット。ショップは、地方のローカル局です。
全体的な話と局所的な話で噛み合わないことは、往々に起こります。私は、グラベルバイクでもコレが起きているのではないか?と考えています。
その構図が
- 欧米で流行!:日本はそうでも無い
- 日本のとある地域でアツい!:自分の居住地ではそうでも無い
なのかもしれません。
メディアが「今、世界ではコレが流行っています」と報じるのは、極めて普通のことです。それがメディアの役割ですから。「また新たなモノを売りつけようとしている」と深読みする人は、捻くれています。
むしろ
- 「流行っているモノを、広告主に配慮して意図的に報じない」
- 「流行っていないモノを、広告主と結託して流行っているかのように報じる」
こちらの方が、よっぽどタチが悪いです。
ただ、こちらも決して珍しい話ではありません。一般ユーザーが捻くれていくのも、ある意味仕方ないのかもしれません。
仮説5 ぶっちゃけ売れると思ってない
無いと思いたいです。
筆者の考え
個人的には、仮説1~4が複合的に混じり合っている結果かな?と。あえて言うなら、仮説3と4(ショップとして普及方法を悩んでいる&メディアとショップの役割差)の比率が大きいのかな?と思いました。
メディアからは「グラベルバイクは世界的に流行っている」「これからはグラベルの時代だ」という旨の記事が出てきます。筆者は、これが客観的事実に基づく記事なのかは分かりませんし、それを判断する術もありません。まあ本当なのでしょう。
ただ、個人的には「海外で流行っているかどうか」は重要ではないと思っています。それよりも、グラベルバイクがある事で生活がどう豊かになるのかを、もっと解像度高く紹介して欲しいなと。
言い方は悪いですが、「飛行機輪行して北海道のグラベルを走ったら楽しいです」なんて、言われなくても楽しいだろうなって想像がつきます。
私が知りたいのは、そこじゃ無いです。
その意味で、個人のブログやSNS投稿の方が、グラベルバイクのある日常が解像度高く伝わってきました。
この辺りの匙加減に加え、グラベルバイクの何処を推していくのかでショップは苦心しているのかな?と考えました。
まとめ
本記事というよりは前回記事も含めたまとめになりますが、個人的にグラベルバイクは「自転車沼に埋まった向こう側の人が楽しんでいる」感が拭えません。
前回の記事にも書きましたが、「楽しそうではあるが、自分には縁の遠い世界に感じる」といった所です。筆者のような?一般層まで普及するのは、もう少し時間が要るのかなと。
そして、ここまで書いていて、筆者がロードバイクを始めたキッカケを思い出しました。
筆者がスポーツバイクに乗り始めたのは、学生時代にアルバイト先の1個上の先輩が乗っていたからです。
同時期父親も乗っていましたが、それを見ても「何となく面白そうだけど、オッサンになったらやる趣味」という認識でした。
コレが、同年代のアルバイト先の人が乗っているのをみて、「自分もやっていいのかも?」と考えが変わった事を、今でもよく覚えています。
グラベルバイクに求められているのは、この「自分事感」なのかな?と。いくらメディアやインフルエンサーが推した所で、そう簡単に「自分事」には思えません。
顧客が、最初に使っている人の生の声を聞けるのは、筆者のように身近にいる知人。そうでなければ、自宅近くのショップスタッフです。
そこからの発信が増えることで、エンドユーザーもより自分事として情報に触れる事が出来ます。
速効性は無さそうですが、このサイクルが回る事で少しずつグラベルバイクの普及に繋がるのかな?という気がしました。