「決戦用ホイールの投資対効果は、どれほどのものなのか?」
ヒルクライムのホビーレースを頑張りたい勢の私として、気になるテーマのひとつです。
本ブログを読まれている方は、ヒルクライムレース向けの「決戦用ホイール」をお持ちの方も多いのでは無いでしょうか?私もリムブレーキのエモンダをメイン機にしていた頃は、ホイールを練習用(カンパニョーロ ゾンダ)とレース用(Roval CLX50)で使い分けていました。
逆に、ディスクブレーキのスペシャリッシマに乗る事が多くなってからは、ホイールの使い分けをしなくなりました。その理由をひとことで言えば、ディスクブレーキ車はホイールを使い分ける意味が(殆ど)無いと判断したからです(詳細はこちらの投稿より)。
ここで、ふと湧いたひとつの疑問。「決戦用ホイールって、軽くてエアロでタイムが良くなる(と信じている)けど、実際のところ練習用ホイールと比べてどれくらい速くなるんだろう?」
今回は、これを実験してみました。
いつも通り、最初に結論を記載します。
Roval CLX50(TLR) | Campagnolo Zonda(CL) | Roval CLX50(CL) | |
Lap1 | 16:39 / 255w | 16:56 / 255w | 16:23 / 255w |
Lap2 | 16:37 / 255w | 16:54 / 255w | - |
「距離5.10km・平均勾配6.0%」の峠でヒルクライムTTをしたところ、
レース用ホイールのRoval CLX50は、練習用のカンパニョーロ ゾンダより平均17秒速かった。これを乗鞍ヒルクライムに換算すると、およそ68秒の差になると考えられる。ただし、これは練習用ホイールをCL・レース用はTLRで運用した場合。試しにレース用もCLタイヤにして走行したところ、そのタイム差はさらに広がった。
以上の結果となりました。
この投稿が、ホイール購入・レースやイベント参加時の参考になれば幸いです。
実験のきっかけ
ホイールは、ロードバイクのグレードアップを考えるとき、最初に交換を検討する部品のひとつだと思います。
一部の超高価格帯完成車を除けば、完成車に付属するホイールは良いところで中級。多くは廉価品であることが一般的です。そして、「これをミドル・ハイグレード製品に交換すると、重量が軽くなって走りも良くなりますよ」というのが、よく目にする謳い文句だと思います。
私自身、上記の謳い文句がおかしいとは思っていません。自分の経験上も、確かに走りは変わる実感があります。
ただ「どれくらい変わるのか」は、私はうまく説明出来ません。また、7万円ミドルグレード品を30万円超のホイールに交換した場合、後者が4倍以上良くなるのかも分かりません。(そもそも、何を持って4倍良いとするかという議論もあるでしょう)
- 「高級ホイールを履いたら、自転車が軽くなって速くなる実感は確かにある。けど、タイムベースでどれくらい速くなるの?」
- 「来年のヒルクライムレース向けて、軽量ホイールが欲しい。けど、安いとは言えない金額を投資する価値はどれくらいあるの?」
これ、私を含めた多くのサイクリストが疑問に感じているのでは無いでしょうか?少なくとも私は、とても気になります。
題して「レース用カーボンホイール vs 練習用アルミホイール ヒルクライム対決」
結果は、冒頭に記載したとおりです。
実験に際しての各種条件
比較対象ホイール
- カンパニョーロ Zonda 2Way 定価8.5万円 (2022年11月時点)
- Roval CLX50 定価29.7万円 (定価は2017年発売当時。2022年11月時点では廃番・ディスク同等品は35.2万円)
今回実験対象のホイール、練習用ホイールは定番のカンパニョーロ・ゾンダ。レース用の軽量カーボンホイールは、Roval CLX50です。どちらも、私の私物です。
その他機材
- フレーム:Trek EmondaSLR 2018 リムブレーキ
- メインコンポ:Sram Red11s
- ホイール:上記の通り
- タイヤ:Continental GP5000 25c ※
- チューブ:Vittoria Latex
※タイヤは、コンチネンタルのGP5000シリーズです。今回、RovalはTLR・ZondaはCL+ラテックスチューブで走行しました。実験であれば、タイヤも全く同一条件に揃えるのが理想です。ただ、
- bicycle rolling resistanceの解析結果によると、GP5000に関してはCLとTLRで殆ど走行抵抗に差が無い(TLRの方が、1.6w少ない)
- 肌感覚として、TLとCLで大きなタイム差は生まれない印象がある
- 向こう側の一般的な宣伝文句として、チューブレスは少々重くなる代わりに走行抵抗が下がる。従って、運用が多少手間でもレース本番を速く走る為なら、使う価値があるのではないか?(実際、2022年のヒルクライムレースはTLを使いました)
以上より「練習ホイールは練習仕様・レースホイールはレース仕様」と敢えて条件を揃えず、最も差がつくであろう条件下で実験してみました。(これも、条件を揃えて実験したら面白い結果が出るかもしれません。また1つ実験のネタが出来ました)
実験コース
蓬莱峡ヒルクライム(距離5.1km、平均勾配6.0%)で実施しました。なお、Strava上はもう数100m長いセグメントになっています。今回は「信号ガチャ」防止のため、約300m手前にある信号をゴール地点としています。
実験に際しての、その他条件
基本的な条件は、前回の「エモンダ vs スペシャリッシマ」と同様です。
- 両タイヤで2本ずつ計4本、すべてLap平均パワーが255w(約4.25w/kg)になるよう登坂する。
- 空気抵抗をなるべく揃える為、全行程をブラケットポジションのシッティングで登坂する。上ハンに持ち替えたり、ダンシングはしない。
- 私にコントロール出来ない各回の風向き・気温上昇に伴う気圧変化etcは、考慮しない。
- パワーメーターは、「Assioma Duo」を使用する。1本目の走行前に、メーカー指定の方法(スマホアプリ)でゼロ校正を行う。
各回のスタート前に毎回同一量の水をボトルに入れて、毎回の重量を揃える。→タイムにほとんど影響しないことが分かったため、意図的に極端な差をつける事はないが、厳密に一致はさせていない。- 空気圧は、すべて5.0barに統一した。
- Zondaのチューブは、Vittoriaのラテックスチューブを使用した
- Roval CLX50は、6ヶ月前の組み付け時に前後それぞれ40gのシーラントを入れている。ただし、実験の時点でどの程度残っているかは不明。→前後輪で、これくらい残っていました。
結果
Roval CLX50(TLR) | Campagnolo Zonda(CL) | Roval CLX50(CL) | |
Lap1 | 16:39 / 255w | 16:56 / 255w | 16:23 / 255w |
Lap2 | 16:37 / 255w | 16:54 / 255w | - |
重量・エアロ性能それぞれに勝る(であろう)Roval CLX50が、予想通り良いタイムを出しました。
気になるのは、ROVAL+CLタイヤのタイム。時間の都合で1本しかテスト走行が出来ませんでしたが、TLRよりも良いタイムを出しました。これは風向きマジックなのか、それとも…
考察
「ゾンダ vs ロヴァール」の、タイヤをCLで揃えた純粋なタイム差は、5kmの登坂で凡そ30秒です。なお、ロヴァールはリム内幅が20.7mmと広いため、今回のようにまったく同じタイヤを取り付けた場合ロヴァールの方がタイヤ実寸は広くなり、条件面で有利になったと思われます。
「それを踏まえても30秒・乗鞍換算で2分程度しか差がつかなかった」と言えるかもしれません。
このタイム差をどう評価するかは人それぞれだと思いますが、個人的には「20万以上の投資に対する効果としては、ちょっと物足りない」と感じました。5分はムリでも、希望的観測も含めて3分程度は差がつくと予想していました。
また、もし本当に「カーボンホイール+ラテックスチューブ」の組み合わせが最速の場合、後述しますがリムブレーキ車では運用できません。「ディスクブレーキ車とリムブレーキ車のタイム差」と「ラテックスチューブとTLR(ブチルチューブ・TU)のタイム差」の検証が必要となります。なお前者は、エモンダvsスペシャリッシマが多少参考になるかもしれません。
注意 ラテックスチューブの運用について
今回最速タイムを出した「カーボンホイール+CLタイヤ+ラテックスチューブ」の組み合わせは、ディスクブレーキ車でしか運用出来ません。リムブレーキのカーボンホイールでラテックスチューブを使うと、ブレーキをかけ続けた際にリム・チューブが高熱になり、パンク・ホイール損傷の恐れがあります。
今回は
- 1回のダウンヒル距離が短いこと・途中休憩を挟むポイントがあること
- コース全体が比較的緩斜面の直線基調で、上体を起こすだけでスピードコントロールが可能なこと
- 当日の気温が低いこと(高熱になりにくい)
- 交通量が少なく、万一パンクしたとしても後続車両への影響・リスクが限りなく小さいこと
- ディスクブレーキ車が普及した現在、軽量で走行抵抗が低いとされるラテックスチューブの方が、情報としての価値がある
これらを総合的に判断し、一時的にリムブレーキのカーボンホイールにラテックスチューブを入れてテストしました。なお、実験中は細心の注意を払って走行しましたが、実験後直ぐにブチルチューブに戻しています。
上記組み合わせは、あくまで実験のための運用です。この使い方による機材の破損・事故・トラブルetcには筆者は一切責任を負いかねますことを記載しておきます。
ヒルクライムレースの場合、下山はスピードコントロールがあり、ブレーキは掛けっぱなしに近い状態となります。後続のライダーを巻き込んだ事故に発展する確率がありますので、特にヒルクライムレース本番での上記運用は絶対しないようくれぐれもお願いします。
まとめ
繰り返しになりますが、
- 「練習ホイール+CL vs 決戦ホイール+TLR」で、約17秒
- 「練習ホイール+CL vs 決戦ホイール+CL」で、約30秒
の差となりました。こちらのタイム差を乗鞍換算すると、それぞれ68秒と120秒です。
以上より、冒頭の「決戦用ホイールでどの程度タイム短縮されるか?」という疑問は、「1時間のヒルクライムで凡そ2分程度」という回答が、ひとつの目安になりそうです。少なくとも、例えば富士ヒルシルバーギリギリ達成の人がホイールを高級なモノに替えたとしても、それだけでゴールド達成(10分短縮)とはならないでしょう。
また、TLRよりCLの方が良いタイムを出した件については、今後さらなる検証をするつもりです。
一連の結果と今後の実験が、読まれた方の機材選びの際の一助になれば幸いです。
2022.1.23
実験結果の表を追加しました。