「空気圧を変えると、ヒルクライムのタイムは変わるのか?」
いつもの記事では「ヒルクライムの市民レースを頑張りたい勢の私にとって~」と書き始めるのですが、これ、個人的にはあまり気にしていませんでした。
空気圧は、シクロクロスやマウンテンバイクetcのオフロード、ロードレースを走る人であれば、かなりシビアに管理されると思います。空気圧を下げると、コーナーでの安定感が上がるのは実感できます。また、あまりに高圧だと、長距離乗るには不快です。
ただ、レースはヒルクライムにしか参加しない筆者は、体重が60kg弱という事も相まって基本的にはメーカー推奨範囲の下限で空気圧管理していました。それで普段のサイクリング・トレーニングで不満がないので、本番もそれに習ってきました。
「今までたいして気にしていなかったけど、自分に最適な空気圧は別にあるかもしれない」ただ、「ヒルクライムで速く走れる空気圧」がもし存在するのであれば、それは知りたい。
ということで、いつもの如く結論だけを知りたい方のために先に結論を書くと
8Bar | 5Bar | |
Lap1 | 16:18 / 265w | 16:02 / 265w |
Lap2 | 16:05 / 265w | 16:04 / 265w |
「登坂距離3.14km 平均勾配10.9%のヒルクライム」においては、8Bar 1本目のタイムを外れ値とみなせば、空気圧によるタイム差は殆ど無かった。逆に2本目を外れ値とした場合、低圧の方が10秒以上速かった。(過去の経験上、同一条件のLap1と2は数秒以内の差に収まるのが普通です)
以上の結果となりました。(高圧3本目を走る時間が無く…すみません)
実験のきっかけ
「漢の11気圧」
このワードを懐かしく感じた方は、恐らく10年以上の歴があるサイクリストでしょう。その昔ヒルクライムレースといえば
- 超軽量決戦用カーボンホイール (ライトウェイト マイレンシュタインが皆の憧れ)
- 19Cのチューブラータイヤに空気を全力で入れる
こんな時代がありました。今となっては信じられませんが、本当です。知り合いでも自転車屋さんにでも聞いてみて下さい、微妙に盛られているかもしれませんが、大筋としてウソでは無い筈です。
ところが、この10年で、上記のような仕様の自転車に乗る人は激減しました。
- 走行抵抗に関する分析技術が進歩し、空気圧と速さが右肩比例しない事が分かってきた
- グリップが落ちるので、登り以外では扱いにくい
- 登り一発の仕様とはいえ、乗り心地が不快
- タイヤ(ホイール)のワイド化
- CL/TLタイヤの進歩
- 車体のディスクブレーキ化
この辺りが、理由でしょうか。適当に思いつくまま書いているので、何か抜け漏れがあるかもしれません。
この中でも一番大きな理由は、“空気圧と速さが右肩比例しない事が分かってきた”事のように思います。
「空気圧が高すぎると、自転車が跳ねてしまうから速く走れない」
前提として、私はこの理屈を適切に説明する知識と自信がないので、この記事では細かい技術的な説明は割愛します。このテの話に詳しい人は、ココは読み飛ばしを推奨します。
「空気圧が低すぎると、タイヤが潰れてしまい全然スムーズに走らない」これは、多くの方が肌感覚的にも分かると思います。恐らくここから
「タイヤが潰れると遅くなるんでしょ?じゃあ、タイヤが潰れないように限界まで空気入れようぜ」TUタイヤが基本だった10年前は、こんな感じでした。「練習はすればするほど速くなる」に通ずるモノを感じますね。
ところが、この10年の間に様々な分析・技術がすすみ、「空気圧は低すぎたらダメだけど、高すぎてもダメ」と言うことが分かってきました。
というのも、私たちが自転車に乗る道路、程度の差はあれどデコボコしています。このデコボコがキモで「低すぎる空気圧は、タイヤが潰れてしまうから遅い。一方高すぎる空気圧は、路面のデコボコでタイヤが跳ねてしまうから遅い」。これが、2022年現在主流の考え方です。ミシュランを取り扱う日直商会のHPにも、こちらように記載があります。
これを知った私は、体重が軽いということもあり、細かいことは気にせずメーカー指定値の下限で空気圧を調整していました。ただ、「ヒルクライムで速く走れる空気圧」が存在するのであれば、それは知りたい。
もし、空気圧を変える事でヒルクライムのタイムに差が出るのであれば「タダで速くなる」可能性があります。高額なカーボンホイールを買う必要も無いし、レース前にチューブレスタイヤを付け替えて、ビードが上がらないなどと大騒ぎする必要もありません。
これ以外にもいくつか「どうやったらヒルクライムを速く走れるのかシリーズ」のネタはいくつかありますが、すべて準備が面倒。場合によっては、おカネも掛かります。
ところが、空気圧調整であれば、文字通り自分の最適な空気圧に調整する「だけ」です。コレだけで速く走れるのであれば、やらない理由はありません。
以上が、今回実験に至った理由です。
各種実験条件
比較対象
- A群:Michelin Power Cup CL 25c 8.0Bar
- B群:同 5.0Bar
タイヤは、実験前の時点で1,500km程度走行済み(Strava調べ)。
使用機材
- フレーム:Bianchi Specialissima Disc
- ホイール:Mavic Cosmic SLR45
- チューブ:Vittoria Latex
- メインコンポ:Shimano Ultegra 12s
実験コース
六甲山逆瀬川ルートの一部 (登坂距離3.14km、平均勾配10.9%)
余談ですが、平均勾配10.9%でL4走トレーニングなんてやらない方が良いです。今回は、34−30サマサマでした。昔は「乙女ギア」なんて揶揄されたギアですが、今回の空気圧然り時代はどんどん変わります。
実験に際しての、その他条件
基本的な条件は、過去の実験と同様です。
- 各空気圧で2本ずつ、すべてLap平均パワーが265w(約4.41w/kg)になるよう登坂する。
- 空気抵抗が同じになるよう、全行程をブラケットポジションのシッティングで登坂する。上ハンやダンシングはしない。
- 各回の風向き・気温上昇に伴う気圧変化etcは、私にコントロール出来ない事なので考慮しない。
- パワーメーターは、「Assioma Duo」を使用する。1本目の走行前に、メーカー指定の方法(スマホアプリ)でゼロ校正を行う
各回のスタート前に、毎回同一量の水をボトルに入れて重量を揃える。→タイムにほとんど影響しないことが分かったため、本条件は除外する(詳細はこちらの記事より)。- 走行順は、実験の都合上「高圧→低圧」の順とした
結果
8Bar | 5Bar | |
Lap1 | 16:18 / 265w | 16:02 / 265w |
Lap2 | 16:05 / 265w | 16:04 / 265w |
8Barは、タイムにバラツキが出てしまいました。当事者の肌感覚になってしまいますが、1本目が外れ値のような気がします。
考察
一言で言えば「高圧にするメリットがあまり無い」と感じました。
乗り心地が露骨に悪化するのと、上記写真のような路面のデコボコで自転車が跳ねます。特にダウンヒルでは顕著で、高圧1本目の下りではヘッドが緩んでるのかと誤認するほどでした(もちろんそんな事は無かったのですが)。
「デコボコ×下りコーナー」の組み合わせは本当に最悪です。デコボコで自転車が跳ねてしまうので、スピードを落とさないと(否落としても)どんどんアウト側に流れていってしまいます。
なお、今回の記事は「空気圧とヒルクライムタイムの関係」ですので、下りのバイクコントロール性は別の話かもしれません。
ただ、(私が走った事のあるレースに限ってしまいますが)例えばツールド美ヶ原やヒルクライム大台ヶ原といったレースは、コース終盤にスピードが乗る下りコーナーが含まれています。仮に空気圧を高圧にしすぎると、登坂より下り区間で差がついてしまうように思います。
実験結果をみても、仮に登坂に限定してもタイム差はほぼ無いor低圧の方が僅かに好タイムです。ロードバイクタイヤの低圧運用が主流になってから数年経つ印象ですが、ヒルクライムも例外では無いなと感じました。
私の場合、何も考えずに最低で運用していましたが、「コレで良かったんだ」と再確認できたように思います。
まとめ
この結果は「今回のコース・今回のタイヤ・今回のホイール・私の体重・私のペダリング」で出た結果です。コース・タイヤが変われば、最速の空気圧は変わる可能性があります。また、読まれた方に「ヒルクライムでは、空気圧は○Barにするとよいですよ」とご提案する記事ではありません。
お伝えしたいポイントは「今回は、上限下限でタイム差は無かった。であれば、高圧にするメリットは薄いのでは?」という事だけです。
この実験、特別な機材や準備は必要ありません。いつものトレーニングに行く際、空気圧を高めに入れて、ポケットに空気圧系を持って行くだけです。空気を継ぎ足すのは面倒ですが、少しずつ抜くのは簡単です。
よろしければ、読まれた皆さんもやって頂けたらと思います。思ってもみなかった、意外な結果が出るかもしれません。