ヒルクライムレースを頑張りたい勢の私にとって、足回りの軽量化は非常に気になる項目のひとつです。
本ブログをご覧の方は既に耳タコだと思うので細かい説明は割愛しますが、自転車を軽量化するのであれば、足回り・回転部の外周を軽量化するのが最も効果的といわれています。
そして「足回り」を構成する部品は幾つか有りますが、チューブはタイヤの次に外周に位置する部品です。
今回のテーマは、そのチューブです。効果の程を実験するのは、近年?頭角を現してきたTPU(ポリウレタン)チューブです。
後述しますが、私は普段ヴィットリアのラテックスチューブを使っています。ラテックスチューブの中では最軽量という製品ではありませんが、特に重すぎるとも思いません。走行抵抗も低い(らしい)ので、気に入っています。
一方、Magene EXAR TPU チューブの重量は、上記ラテックスチューブの半分程度です。大変に軽い。コレを使えば足回りは確実に軽量化され、理論上はヒルクライムのタイムも向上するはず。
ということで、いつもの如くやってみました。
結果を先に記載します。
TPU | Latex | |
Lap1 | 265w / 12:48 | 265w / 12:59 |
Lap2 | 265w / 12:51 | 265w / 12:53 |
「距離4.4km・平均勾配5.4%」のコースを一定パワーでヒルクライムしたところ、TPUチューブの方が平均6.5秒速いタイムを出した。この結果を富士ヒルのタイムに換算すると、理論上35秒程度の差が発生すると考えられる。
以上の結果が出ました。
TPUチューブについておさらい
今まで、ロードバイクのチューブといえばブチルチューブorラテックスチューブの2択でした。
ところが近年、第3の選択肢として「TPUチューブ」という製品が出てきました。私が知る範囲の話になりますが、2020年頃に発表されたチューボリート・レボループがひとつの転機だったと認識しています。
当初のフレコミは「重量はブチルチューブの半分以下、耐パンク性能は2倍。転がり抵抗はほぼ変わらない」
またこの手の煽りかよって感じがしますが、もし仮にこれが事実であれば、足回りの大幅な軽量化と耐パンク性の向上が期待出来ます。
この記事は、TPUチューブを解説する目的ではありませんので、詳細は割愛します。詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
TPUチューブの特徴
TPUチューブのメリットとデメリットを筆者なりにざっくりまとめます
メリット
- 従来のゴム製チューブ(ブチル・ラテックス)より、大幅に軽い
- 従来のチューブより、小さく折りたたむ事が出来る
- 異物突き刺しの耐パンク性能に優れる(らしい)
- 計測器上では、転がり抵抗はラテックスチューブやTLRとトントンくらい(らしい)
デメリット
- 従来のゴム製チューブと比べて、高価
- パンク修理(パッチ貼り付け)は、専用のキットが必要
- 素材の性質上一旦空気を入れると再収縮しないため、取り付けがやや難しい。また、1度取り出すと再取り付けはかなり難しい。
- 耐熱性の都合上、リムブレーキのホイールには使えない製品がある(製品によります)
- 金属バルブ×樹脂チューブの相性が悪く、結果樹脂のバルブを採用した製品が多い。そして、樹脂のバルブに金属のバルブコアを取り付ける為、バルブ周りで問題が起こりやすい(らしい)
- 成形の都合上、素材が2重になる部分が発生し、そこだけチューブの伸び方が変わる。結果、パンクの原因になる(かも)
- 乗り心地は、従来のゴムチューブより悪くなる(らしい)
- 従来のゴムチューブより振動吸収性が悪いため、凹凸のある路面では(理論上は)跳ねて遅くなる
抜け漏れはあるかもしれませんが、大筋でこのような特徴があります。
ざっくりまとめると「理論上速い(はず)けど、取り扱いがちょっと面倒くさい」
…どこか既視感のある文言ですね。多くの人が使うのを止めてしまった、某チューブレスが思い出されます。
(なお、乗り心地に関して言うと、こちらの記事にあるCanyonの試乗車はチューボリートのTPUチューブが取り付けてありました。ラテックスチューブやチューブレスタイヤを履いた同車と乗り比べた訳ではありませんので何とも言えない部分はありますが、乗り心地が極端に悪い印象はありませんでした)
実験のきっかけ
タイヤやチューブの交換は、ホイールほどのおカネを掛けなくても効果を実感しやすい、いわゆるコスパの良いグレードアップのひとつです。
従来は、これらによって足回りを改良※したい場合、(※こちらの記事で記載していますが、必ずしも軽量化になるとは言えないので、敢えて「改良」と表記します)
- チューブを、軽量のブチルチューブ or ラテックスチューブに交換する
- タイヤをグレードアップする or チューブレスタイヤに交換する
これらが一般的でした。
ところが、前述した通り、近年第三勢力としてTPUチューブという製品が出てきました。
筆者がTPUチューブで注目するのは、やはり重量です。1時間のヒルクライムであれば、乗り心地が多少悪化してもタイム短縮を出来る機材を使いたくなります。
繰り返しになりますが、TPUチューブは1本辺り30g程度の製品も珍しくありません。従来のゴムチューブと比べて大幅に軽い理由は、素材の空気保持力が高いため、結果ゴムチューブよりも薄く作る事が出来るのが大きな理由のようです。
私が普段使用しているヴィットリアのラテックスチューブは、1本80g程度です。乗り心地は非常に良く、理論上の走行抵抗も非常に低い本製品。ただ、これをTPUチューブに置き換えれば、前後輪合わせて90g近くの軽量化が可能です。
ちなみに、こちらの実験では「リム重量を前後計で130g軽量化すると、乗鞍のタイムを50秒弱秒程度短縮出来る(かも)」という結果が出ました。
ということは、リムより更に外周部に位置するチューブを軽量化すれば、ヒルクライムのタイムは短縮するはず。ラテックスチューブと走行抵抗が一緒であれば、ですが。
今回、コレを実際にやってみた次第です。
なお、結果は冒頭に記載したとおりです。
各種実験条件
比較対象チューブ
- Magene EXAR TPU チューブ バルブ長75mm
- Vittoria Latexチューブ
なお、実測重量は下記の通りでした。
TPUチューブにする事で、約90gの軽量化です。
実験機材
- フレーム:TREK EmondaSLR 2018 リムブレーキモデル
- 車重:6.6kg(メーター・ペダル込み)
- ホイール:Roval CLX50 CL
- タイヤ:Continental GrandPrix5000 CL 25c
- メインコンポ:Sram eTap11s
実験コース
勝尾寺ヒルクライム(平均勾配5.4%、登坂距離4.4km)。勾配的に、仮想富士ヒルには良いコースです。
実験に際しての、その他条件
基本的な条件は、「エモンダ vs スペシャリッシマ」と同様です。
- 両タイヤで2本ずつ計4本、すべてLap平均パワーが265w(約4.5w/kg)になるよう登坂する。
- 空気抵抗が同じになるよう、全行程をブラケットポジションのシッティングで登坂する。上ハンやダンシングはしない。
- 各回の風向き・気温上昇に伴う気圧変化etcは、私にコントロール出来ない事なので考慮しない。
- パワーソースは、「Assioma Duo」を使用する。1本目の走行前に、メーカー指定の方法(スマホアプリ)でゼロ校正を行う。
- 両チューブの1本目登坂前に、ボトル満タンにした。飲水は、登坂後orダウンヒル中に実施。
- 2本目は、下山後直ぐUターンして再登坂する。
結果
TPU | latex | |
Lap1 | 265w / 12:48 | 265w / 12:59 |
Lap2 | 265w / 12:51 | 265w / 12:53 |
個人的には、思ったよりTPUチューブが速いなと感じました。
考察・感想
正直に言って、個人的にこの結果はかなり予想外でした。実験をする時は記事を下書きするのですが、この考察欄とまとめ欄は、イチから書き直しになってしまいました。私は、ラテックスの方が良いタイムを出すと思っていました。
さて、肝心のTPUチューブについてです。
ゼロ発進の漕ぎ出しは、分かりやすく軽くなります。
ヒルクライム中に於いては、勾配が8%程度に上がる区間は、軽さの恩恵がある感じがしました。ギア1枚は言い過ぎですが、シフトチェンジのタイミングが、ラテックスの時よりはずれ込む(坂の奥の方まで重いギアで引っ張れる)のが分かりました。
また、実験とは別に実験のコースでテスト走行をしましたが、ペースを上げ下げがある展開を好む人は気にいると思います。踏み込んだ時のひと踏み目が軽いので、気持ち良くペースを上げる事が出来ます。
一方、緩斜面では、チューブの軽さが効いてる感じはさほどありませんでした。私は走りませんが、平坦TTではTPUチューブの性能は引き出せないのかな?という気がしました。
その他、ヒルクライムのタイムに直結はしませんが乗り味についても一言。
乗り味は、元々パリッとした乗り味のエモンダが、更にパリッと乾いた走行感になります。味気ないっていうんですかね?魅力があるか?と言われたら、乗り味だけならラテックスチューブや軽量ブチルチューブの方が好みです。
ただ、個人的には許容範囲内です。300kmのブルベにはわざわざ使う理由はありませんが、平時のトレーニングライドであれば全然アリです。
※今回、実験の為にリムブレーキのカーボンホイールにラテックスチューブを暫定的に取り付けていますが、本来は使用不可の組み合わせとなります。ブレーキをかけ続けた場合、発熱してリムが破損する恐れがあります。今回のコースは、ブレーキをかけるポイントがヘアピンカーブ手前のみですので問題無いとは思いますが、良い子は真似しないでください案件となります。
まとめ
今回の比較では、私の予想以上にTPUチューブが良いタイムを出しました。
なお、本記事ではTPUチューブの懸念とされる経年劣化を含めた耐久性、耐パンク性については言及しません(出来ません)。
また、ソーヨーのラテックスチューブの様に、もっと軽量なラテックスチューブで実験した場合、どの様な結果になるかも気になる所です。
それ以外にも、リムブレーキユーザーの方向けに、軽量ブチルチューブとの比較も必要だと思います(こちらは実験済み、記事化をお待ちください)
色々パターンを言い出したらキリがありません、やればやるほど沼。ほどほどにやっていきたいと思います。