先日「交通事故死者数が平成4年をピークに減少。令和4年は、6年連続で最少を更新した」というニュースを見ました。
一方で年明け早々、通勤の途中1件の交通事故現場に遭遇しました。朝だったので素通りしましたが、続報によると自動二輪(以下原付も含めて「バイク」とする)と自動車の交差点での事故。いわゆる「右直事故」とのことです。なお、バイクの運転手は亡くなったと記載されていました。
誰一人として遭いたいとは思っていなくても、一方で可能性をゼロに出来ないのが交通事故です。
新年一発目のブログ記事としてふさわしいのかは分かりませんが、新しい年を迎え、改めて交通安全について考えてみることにします。
今回は、警察庁交通局から出ている『令和3年中の交通事故発生状況』という資料を、イチサイクリスト目線で読み込んでみました。本資料のデータは2021年(令和3年)までですが、これの令和4年速報版が冒頭の「令和4年は、6年連続で最少を更新した」という報道の元ネタになっています。
なお、本記事は表と文章をセットで見る必要があるため、スマホ単体では読みづらいと思います。もし宜しければ、お時間の許す時に『令和3年中の交通事故発生状況』をPCやタブレットで表示しながらお読みいただくことを推奨します。
『令和3年中の交通事故発生状況』を読み込んでみて
2ページ 表1-3 交通事故発生状況の推移
交通事故発生件数は、平成16年の95.2万件をピークに減少しています。令和3年は、30.5万件とピーク時の1/3以下まで減少している事が分かります。なお、令和元年→2年の1年間だけで8万件も減少したのは、コロナに伴う外出自粛要請が影響していると想像します。
交通事故による負傷者数は、平成10年代は毎年100万人以上で推移していたが、令和以降は50万人以下で推移しています。こちらは、ピーク時のおよそ半分に減少したようです。
なお、私が自転車を始めた平成21年と令和3年を比較しても、交通事故件数・負傷者数ともに半減している事が読み取れます。以上から、まず大雑把な結論として
- 交通事故の数・負傷者数(死亡者数)ともに、年々減少しています
- 個人的には、「以前と比べて安全になった」という感覚は殆どありません。ただ、事故の数が減少=危ない場面も同じように減少している「はず」ですので、10年前はもっともっと危なかった(であろう)。
以上が、数字から読み取れます。
4ページ 表2-2-1 状態別死傷者数の推移
自転車乗車中の死傷者について、中身を見てみます。
表の中段、自転車乗車中の死傷者数は、毎年右肩下がりに減少しています(令和3年だけは、前年比微増しています)。そして、過去10年で自転車乗車中の死傷者数は半減しています。ただし、平成23年以降日本の人口は毎年減少しており、事故や死傷者数もその分減少している可能性は留意する必要があります。
個人的に注目したのは、バイクと自転車の死傷者数比較です。
私の母は「バイクは危ない。お願いだからバイクにだけは乗らないで」と、私がバイクに乗ること(免許取得を含む)を許可しませんでした。
ただ、少なくとも直近10年の死傷者数は、バイクよりも自転車の方が多いようです。35歳にもなって、今更母親の「当時のお願い」にケチをつけるつもりはありませんが、もし息子にケガをさせたくなければ、バイクでは無く自転車を禁止した方が有効と考えられます。
「いや、ケガでは無く、せめて死亡だけは…とお願いをしたのかな?」と思い、もう少し調べてみました。それが以下の表です。
8ページ 表2-2-11 状態別死者、重傷者、軽傷者数の推移
バイク・自転車それぞれのケガの内訳を見てみます。
各状態別の致死率(赤線部)を見ると、バイクは自転車よりも致死率が高い傾向にあります。確かにココを見れば「母が言うとおり、バイクはやっぱり危ない」となるかもしれません。
ただ、数字をもう少し細かく見てみると、別の見方も出来ると思います。
なぜ自転車の致死率はバイクより低いのか?私は、この理由を一言でいうと「自転車の致死率がバイクより低いのは、軽傷者数が非常に多いから」(軽症=全治30日以内、重症=それ以上)、と考えました。
致死「率」なので、仮に死亡事故の数が同一であれば、死亡に至らない事故が多いほど致死「率」は下がります。(死亡1件に対して、99件の重症・軽症事故が発生すると致死率は1%。これが、999件に増えると致死率は0.1%に下がります。)この場合、致死率が高い=危ないと言って良いのか?という議論が生まれると思います。
軽症を除いて、バイクと自転車の「死者・重傷者数」に限定して比較してみます(青線部)。すると、確かに自動二輪+原付を合計すれば若干バイクの方が多いとは言え、自転車とさほど変わらない事が分かります。
以上より私は「バイクは自転車より危ない」という主張は正しいとは思えません。
「自転車は、事故の大半が(運良く?)軽症で済む」というだけで、自転車も十分に「危ない」と思います。自転車は、軽症で済んでしまう事故が多すぎるせいで「死亡・重症事故への認識が薄れてしまっている」という見方もできるのではないでしょうか。
7ページ 表2-2-8 自転車乗車中の年齢層別死傷者数の推移
話の都合上、ページを行き来してしまいます、すみません。これは、全体を「自転車乗車中に死傷した人」に絞った表です。
「自転車乗車中に死傷した人」は、15-19歳が全体のおよそ17%。他の年齢層より、群を抜いて多いことが見て取れます。これは、高校生が自転車通学を始めるのが大きな理由と想像します。なお、10年前と比較すると指数は46にまで減少していますが、これは少子化による若者減が加味されていない数字です。
9ページ 表2-3-1 状態別人口10万人当たり死傷者の状況
7ページの表は、少子化で若年層の数が減少している事が反映されていませんでした。そこで「人口10万人当たり」の推移を見てみることにしました。
15-19歳の自転車乗車中の死傷者(赤線部)は、10年前比で50です。この場合、先の46では無くこちらがより適切な数字だと思われます。個人的には「危ないなぁ」という場面に日々遭遇します。とはいえ、10年前比で高校生世代の死傷者数は半減しているのが事実です。これは意外でした。
そして、冒頭にも記載したとおり、殆どの項目で事故による死傷者数は減少しています。そんな中、ほぼ唯一といって良いと思いますが、増加している項目がありました。
それは、55-59歳と60-64歳の「自動二輪」です。ほぼ一律減少を示している数字だらけの表の中で、10年前比で「119」と「115」という値は非常に目立ちます。
これは、ここ数年「ベテランライダーの事故が増えています」という報道や道路の看板を目にしますが、このような数字が根拠になっていると思われます。
もし自転車による事故が増えれば、上記のような扱いを受け、社会的にやり玉に挙げられかねません。あまりに事故が多い道路があれば、自転車の通行規制etcされる可能性もあります。(実際に、大阪北部の一部道路は二輪車通行禁止になっています。こちらを見る限り、事故よりも暴走族対策とのことですが)
自分たちで自分の首を絞めるような事をしてはいけません。改めて気をつけたいと思いました。
15ページ 表2-3-7 自転車乗車中の法令違反別・年齢層別死傷者数
自転車乗車中に死傷した人が、どのような違反を犯していたのかを示した表です。
まず「安全運転義務」がどのような物かイメージが湧かなかったので、調べてみました。
これ、端的に言えば「スピードの出し過ぎ・スマホながら運転・傘差し・イヤホンetc」が該当するようです。例えばスマホ操作をしながらケガをした場合、「安全運転義務の何れかの違反」に括られるという事だと思われます。
個人的には、死傷者6.6万人のうち2.4万人(率にすると36%)が違反なしという事に驚きました。つまり、自転車乗車中にケガ・死亡する人の3割以上は、何の違反をしていないにも関わらず怪我をしています。私の経験した事故も、恐らくはこの36%に入っているはずです(当時の記事はこちらより)。
どうしようもないケガのリスクがあることは承知して自転車に乗っているつもりでしたが、それが36%というのは理不尽だなぁと感じました。
まとめ
公道では、自転車に乗らない人とも共存する必要があります。当然、価値観・考え方がかけ離れた人とも遭遇する事になります。残念ながら、全くわかり合えない人は一定数存在します。
であれば、「こんなタイミングで右折してくるなんて!」etc頭にくる場面に遭遇するのは、ある意味必然なのだと思います。そして、自分が交通法規に則ってサイクリングをしていても、事故に遭えばケガをするのは自転車側の人間です。
新しい年を迎え、上記を改めて肝に銘じて2023年もサイクリングを楽しみたいなと思います。