ヒルクライム 実験 機材

ケーブル内装で、ヒルクライムはどれくらい速くなるのか? 富士ヒルブロンズ編


ヒルクライムレースを頑張りたい勢の私にとって、ケーブル内装の効果は非常に気になる…というのがいつもの書き出し定型文ですが、個人的には殆ど気にしていません。

ワイヤー内装については「速く走る」事が目的で、それに対するマージナルゲインという観点から見れば、内装されていた方が良いと思います。そこに関しては、筆者もその通りだと思います。

ただ、フレームの前にあったはずの幅5mmの管を数cmフレームの中に隠すだけで、そんなに速くなる?とも思います。内装の効果は、本ブログのコンセプトでもある「やらないよりはマシ」程度なのでは?また、こちらは後述しますが、内装はメリットばかりでは有りません。デメリットもあります。

この「ワイヤー内装の効果」を検証するのが、今回のテーマ。

いつもの如く、結果を先に記載します。

  ワイヤー外装 ワイヤー内装
Lap1 16:18 / 205w 16:22 / 205w
Lap2 16:15 / 205w 16:21 / 205w

「距離4.42km・平均勾配5.4%の峠」でパワーを一定にヒルクライムしたところ、タイム差は計測誤差レベルしか発生しなかった。

以上の結果となりました。

ケーブル内装についておさらい

冒頭の段で記載した通り、ケーブルの内装はメリットデメリットがあります。

本記事を読まれている方は既に耳タコかもしれませんが、知識の整理も含めてお付き合いください。また、もしメリットデメリットに抜け漏れがあれば、コメントetcいただければ幸いです。追記いたします。

ケーブル内装のメリット

  • 空気抵抗の削減(=少ない力でより速く走ることができる)
  • 見た目がスッキリする
  • ハンドルバッグを取り付けやすい

このような点が挙げられます。

ケーブル内装のデメリット

  • ワイヤーケーブル交換の作業工数・所要時間の増加、作業性の悪化。
  • (ショップによっては)割り増し工賃の設定=ユーザー目線ではランニングコストの増加
  • ポジションの微調整が困難(実質全バラししないと出来ない車体もあるとか?)
  • ワイヤーの取り回しがキツ苦くなりすぎると、動きが渋くなる恐れがある
  • ハンドルの切れ角に制限が発生する場合がある(輪行の時不便)

抜け漏れはあるかもしれませんが、およそこのようなデメリットがあります。

少し補足すると、特に上2つは、発生頻度も多く大きな問題です。

ケーブル交換の作業が繁雑になった事で、メンテナンスの工期も長くかかります。ショップによっては、内装バイクは割増し工賃を設定しているショップもある筈です。ただ、工賃が高いからといって、メンテナンス頻度を下げる訳にもいきません。結果的に、ワイヤー内装式バイクは維持費が上がります。

また、内装バイクはポジションに合わせてケーブルの長さをある程度ドンピシャ(って日本語はおかしいのですが)で決める必要があり、結果ポジションの調整代が殆どない場合があります。ハンドルの上げ下げ・ステムの長さ変更だけのために、ケーブル全交換が必要になる場合も。これは「試しにちょっとハンドルを下げてみようかな?」が、簡単にはできない事を意味します。

以上、内装式のメリットデメリットを記載してきました。

ざっくりまとめると「ケーブル内装は、速さの為に利便性を犠牲にしたシステム」と言って差し支えないと思います。

実験のきっかけ

内装にはメリットデメリットがそれぞれあるにも関わらず、この2-3年、新しく発売されたロードバイクでケーブル外装式の車体は殆ど見かけなくなりました。グレードに関係無く、ブレーキワイヤーをハンドル~フレームに内装する車体ばかりです。シフトは、そもそも電動化によりワイヤーの無い車体が増えました。

では、なぜ内装式のバイクばかりなのか?

コレについては、恐らくその方が売れるからなのでしょう。

ヨーロッパのプロが、レースで使うバイク・ブランドが売れる時代です。そして、トッププロがレースで使うハイエンドバイクは、ワイヤーはほぼ100%内装されています。

「現代は、プロが使うものが売れる。そして、プロはワイヤー内装フレームしか使わない」基本的には、これが大きな理由を占めているかと想像します。

ただ、しつこいようですが「ケーブル内装は、速さの為に利便性を犠牲にしたシステム」です。

  • では、利便性を犠牲にする事で得た速さってどれくらいなの?
  • 私たちアマチュアサイクリストは、ワイヤー内装化によってどれくらいの恩恵が有るの?

これを知りたくなったのが、今回実験に至った理由です。

実験方法

実験にあたり、ワイヤーの内装外装以外の条件は極力揃える必要があります。ただ、当たり前ですが外装式のバイクを内装する事は出来ません。

ということで今回は「完全内装バイクにワイヤー状の物を後付け」する事で、仮想外装 vs 完全内装としました。

仮想外装化 条件

  • 仮想ワイヤーを作成するにあたり、形状記憶と容易に変形が可能なものを探した。コスト・入手性等を考慮し、100均で購入した「モール」に、熱帯魚飼育用のゴムホースを巻いた物を作成。これを外装用ワイヤーとした。

  • 露出するワイヤーの長さは、Emonda SLR2018 リムブレーキ のブレーキワイヤー露出部と同じ長さに設定。
  • 露出したワイヤーは、エモンダとなるべく同じになるように取り回しした上で、ガムテープで貼り付けた。
  • エモンダがetap(電動無線変速)を使っている都合上、シフトワイヤーの露出は考慮しない。

最終的には、こんな感じになりました。

実際のケーブルは、中にオイルが詰まっているのでもっと重くなる筈です。ただ、こちらで検証したとおり、動かない部分の重量増はタイムに影響は殆どないと予想します。

各種実験条件

比較対象

  • Bianchi Specialissima Disc2021ブレーキワイヤー外装
  • Bianchi Specialissima Disc2021 ワイヤーフル内装

使用機材

  • フレーム:Bianchi Specialissima Disc2021
  • ホイール:Roval Alpinist CL
  • タイヤ:Michelin Power Cup CL 25c
  • メインコンポ:Shimano Ultegra12s

実験コース

勝尾寺ヒルクライム (平均勾配5.4% 登坂距離4.42km)

実験に際しての、その他条件

基本的な条件は、「エモンダ vs スペシャリッシマ」と同様です。

  • 空気圧は5.0とした。
  • ワイヤー有り無しで2本ずつ計4本、すべてLap平均パワーが205w(約3.35w/kg)になるよう登坂する。
  • 空気抵抗が同じになるよう、全てブラケットポジションのシッティングで登坂する。上ハンやダンシングはしない。
  • 各回の風向き・気温上昇に伴う気圧変化etcは、私にコントロール出来ないので考慮しない。
  • パワーソースは、「Assioma Duo」を使用する。当日の走行前に、メーカー指定の方法(スマホアプリ)でゼロ校正を行う。
  • 各仕様の登坂前に、ボトルを満タンにした。飲水は、登坂後orダウンヒル中に実施。
  • 2本目の登坂は、1本目の下山後直ぐUターンして実施した。
  • ワイヤーの有無で総重量が変わらないよう、外したワイヤー(モール)はバックポケットに入れて走行した。
  • ブレーキの位置と大きさがディスクとリムで異なるが、統一は困難。今回は考慮しない事とする。

今回は「富士ヒルブロンズ編」ということで、今までの実験シリーズより平均出力を落とした3.35w/kgで実験しています※。いずれ、同シルバー編(4.2?w/kg)、同ゴールド編(4.7?w/kg)をやってみたいと思っています。

美ヶ原のレースを終わって1ヶ月ほどトレーニングをサボったら、今までの実験で基準としていた4.5w/kgで走れなくなりました。1ヶ月あれば、人は変われるという事を実感しました…

結果

  ワイヤー外装 ワイヤー内装
Lap1 16:18 / 205w 16:22 / 205w
Lap2 16:15 / 205w 16:21 / 205w

厳密にいえば外装の方が若干タイムは良いのですが、風向き等による計測誤差と考えられます。

考察・感想

率直な感想を述べると、ここまで効果が無いとは思いませんでした。

今回、富士ヒルのブロンズリング(富士スバルライン90分切り)を安定して狙えるであろう、3.35w/kgのパワーで走行しています。参考までに、Lap平均時速は、15.9km/h程度です。この速度・パワーで登坂して内装の効果が無いということは、それ以下のパワーであれば結果はお察しです。

そして、富士ヒルのブロンズリング取得率は、凡そ3割と言われています。と言うことは…?

そもそも、私が今も乗っている「エアロ?何それ美味しいの?」時代のエモンダと、現行(とはいえ2020年夏発表)のエモンダ、「ある条件下比較すると、平坦路で60秒。富士ヒルは21秒速い。ただし、ある条件の内容は不明」というのが当時の発表でした。

「ある条件」の中身は分かりませんが、今回の実験結果とセットで考える限り、少なくとも「ある条件」は富士ヒルシルバーレベル以上である可能性が高いと予測します。少なくとも、今の私には何の恩恵もない可能性が極めて高いといえます。

つまり、ワイヤー内装の恩恵を受けることができる人は、ある程度限られると考えられます。

まとめ

話をヒルクライムに限定すれば、ワイヤーフル内装の恩恵がある人はかなり限定されるのでは無いか?というのが、今のところの結論です。つまり、ワイヤー外装で空力が悪いとされるリムブレーキバイクは、内装式ディスクバイクに見劣りしない可能性が示唆されます。

無論、見た目が好み・ハンドルバッグを取り付けやすい等の理由で、内装式バイクを選ぶことを否定するつもりはありません。また、平坦路や下り坂であれば、結果は変わってくると想像(期待?)します。ただ、デメリットも踏まえて「内装式バイクがベストな選択肢なのか?」と考える際、指標の一つになればよいかなと思います。

今後、私の出力が戻ればですが、4.2w/kg(シルバー編)・4.7w/kg(ゴールド編)もやってみようと思います。


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