ヒルクライム 実験 機材

ヒルクライムでは、軽量化とエアロ化どちらを優先すべきか?vol.1


「ヒルクライムを速く走る為に優先すべきなのは、軽量化かエアロ化か?」

ヒルクライムのホビーレースを頑張りたい勢の私にとって、とても気になる問いのひとつです。

「◯%以下の勾配においては、ヒルクライムとはいえ軽量よりエアロ化を優先すべきだと分かった」
「フレーム形状を見直して空気抵抗を減らした結果、○○峠のタイムをxx秒短縮する事に成功した」

ここ数年、新型ロードバイクの発表で、この手の文言をよく目にします。技術によって空気抵抗を減らし、結果峠のタイムが数十秒削れてしまうというのは、とても興味深い話です。

ただ、ここ数年同時進行的に、ロードバイクのディスクブレーキ化がすすみました。(強いて言うなら、エアロが若干先?)ディスクブレーキはその構造上、フレーム・ホイール・コンポがそれぞれリムブレーキ式のそれより重くなる傾向にあります。
最終的な車体重量を同一グレードで比較したとき、ざっくり500~700g程度重くなる印象です。ヒルクライムを頑張りたい勢の私として、1gの軽量化には拘りませんが、700gの重量増は気になります。

(なお、コレは私の都合ですが、スペシャリッシマは12sアルテグラで組みましたので、更に299gの重量増となりました。自転車関係全般の値上がりが激しく、デュラエースには手が出せず)

「フレームのエアロ化・ワイヤー内装化によって、ここ数年で自転車が速くなったのは分かった。ただ一方で、ディスクブレーキ化に伴い、無視できないくらい重量は増加した。結局行ってこいで、ヒルクライムはリムブレーキ時代の軽量バイクの方が速いんじゃないの?」

これ、私を含めた多くのサイクリストの疑問では無いでしょうか?

この謎を「自分で調べてみました」というのが、本投稿の主旨です。

題して、[エモンダ VS スペシャリッシマ ヒルクライム対決 vol.1]

(何かにつけて末尾にvol.1と付与していますが、vol.2があるかは不明です) 

なお、結論を先に言うと

  Emonda Specialissima
Lap1 13:03 / 265w 13:09 / 265w
Lap2 13:04 / 265w 13:07 / 265w
Lap3 (延長戦) 11:50 / 301w 11:45 / 302w

平均勾配5.4%、距離4.42kmのヒルクライムにおいては、軽量リムブレーキのエモンダの方が、登坂1本あたり4.5秒速かった

後述しますが、富士ヒルに置き換えると、凡そ22秒程度の短縮に繋がると考えられる。

ただし上記数字は、PWR4.41w/kgで走行した場合。試しに5w/kgで走行したところ、900g重いディスクブレーキのスペシャリッシマが、僅かに逆転した。

以上の結果となりました。

実験にあたっての、各種条件

バイクスペック

  • TREK Emonda SLR 2018 リムブレーキ
    車重:6.65kg (メーター込み、ペダル分は実測値を加算)
    ホイール:Roval CLX50
    コンポ:Sram etap11s
  • Bianchi Spesialissima Disc 2021 ディスクブレーキ
    車重:7.55kg(メーター・ペダル込み)
    ホイール:Mavic Cosmic SLR45
    コンポ:Shimano Ultegra12s

私の体重

スペシャリッシマ 7.55kg (67.80-60.25)

エモンダ 6.65kg (66.60-60.25+ペダル分0.3)

実験コースの選定基準と選定理由

実験は、北摂(大阪北部)のヒルクライムスポットとして有名な、勝尾寺で行いました。
コースプロフィールは、上述の通り「距離4.42km、平均勾配5.4%」詳細はこちらより(Stravaに飛びます)。

なお、Stravaでトップの方は、9:43。 距離とタイムから算出したであろう平均スピードは、27.3km/h、非常に高速のヒルクライムです。なお、筆者の自己ベストは昨年エモンダで出した10:46、同24.6km/h。たった4.5kmのコースですが、1分以上の差があります。(なお、一般論として、11分切ったらそれなりに速い人認定される筈です。私の周りのレベルが高すぎる。)

他にも幾つか実験の候補地があったのですが

  • 区間内に信号がない
  • 実際のヒルクライムレースで有りそうな勾配
  • 途中に、下りが無い方が望ましい
  • 後述しますが、実験の都合上、スタートorゴール地点の近くにコインパーキングが必要
  • サイクリストが、タイム差をイメージしやすい有名な場所

これらを総合的に考慮し、勝尾寺としました。なお、富士ヒルのコースが「距離24km・平均勾配5.2%」です。

距離だけで単純計算すると、富士ヒルは勝尾寺の5.4倍。高度の上昇や長時間の運動に伴う出力の低下、遮る物の無い山頂からの吹き下ろし等を考慮すると、勝尾寺のタイム×5.5~5.7くらいが、富士ヒル単独TTの目安タイムでしょうか。そこから、集団効果でどれだけタイムを削れるか、と考えています。

個人的に、富士ヒルでのゴールドリング獲得を目標にしており、「富士ヒルで使うべきバイクはどっちだ」を調べる意味合いも有りました。

 

2022.7.26追記

富士ヒルは、65:16秒でした。勝尾寺を12分で走ったとして、上記係数5.7を掛けてで68分半。そこから集団効果で3分短縮したと考えると、およそ辻褄があいます。

ざっくりとした目安として、勝尾寺を3本連続11:30で走る実力があれば、富士ヒルのゴールドに手が届くのでは無いでしょうか?

実験に際しての、その他条件について

  • 各車で2本ずつ計4本、Lap平均パワーが265w(4.41w/kg)になるペースで登坂する。出来る範囲で、緩斜面急斜面問わず出力が一定になるようペダリングする。(延長線は、300wで5w/kgを目標とした)
  • 人間の空気抵抗をなるべく揃えるため、ブラケットポジションのシッティングで登る。上ハンやダンシングは使わない。
  • キリが無いので、横を通過するクルマの数や、各回の風向き・気温変動によって発生するタイム差は、無視する。
  • ウェアは、4本とも統一。ダウンヒル時の防寒を目的に、ジレを背中の真ん中ポケットに入れる。気温が上がって必要なくなっても、ジレは持ったまま登坂する。
  • パワーソースは「Assioma Duo」を使用する。先にスペシャリッシマで2本走行後、そのペダルをエモンダに付け替える。付け替え後は、メーカー指定の方法(スマホアプリ)で、ゼロ校正を行う。
  • レース当日を想定し、ボトルには200cc程度の水を入れて走行する。ただし登坂中は飲水せず、給水は登坂後or休憩中に行う。各回の登坂前に減った分の水を補充し、毎回ボトルの中身を一定にしてタイム計測する。なお、突き詰めるとキリが無いので、実験中に飲水した分の体重増加は考慮しない。発汗による脱水と相殺するものとみなす。
  • タイヤは、4本同じ銘柄のCLタイヤを取り付けた。全て新品で、カタログ値は215g。
    事前に4本それぞれの重量を測定した結果、214g,216g,216g,221.5gだった。重量差をなるべく揃えるため、214gと221.5gの個体をスペシャリッシマの前後に、216gの2本をエモンダに装着した。
  • 取り付けたタイヤは、事前走行はしない。両バイク1本目の登坂は、ワックス落としを兼ねる。空気圧は、タイヤの指定値下限の5.0に4本とも揃えた。
  • チューブは、Vittoriaの製品を使用。エモンダはブチルチューブ、スペシャリッシマはラテックスを取り付けた。
     (条件を揃えるという意味では、両車ブチル・同じタイヤを使うべきですが、今回の目的は「いまの手持ち機材で、富士ヒルをより速く走る事ができる車体はどちらなのか?」の検証を含んでいます。それを踏まえたとき、ラテックスを使える車体はラテックスを使うべきと判断しました)
  • 駆動系は、事前に同じ製品・方法で洗浄と注油を実施した。チェーンは、チェーンチェッカーにて両車共に磨耗(伸び)が無いことを確認済み。ただし、納車や修理タイミングの都合上、エモンダのチェーンはほぼ新品。スペシャリッシマは、1,500km程度走行したチェーンで走行する。

結果

  Emonda Specialissima
Lap1 13:03 / 265w 13:09 / 265w
Lap2 13:04 / 265w 13:07 / 265w
Lap3 (延長戦) 11:50 / 301w 11:45 / 302w
  • 平均265w (4.41w/kg)で走行したところ、2本ともにエモンダの方が数秒速かった。
  • 平均出力を300w(5w/kg)に上げたところ、スペシャリッシマが逆転した。

参考データ

上記より、更に読み物レベルの結果にはなりますが、距離4.67km、平均勾配9.7%の区間でのデータは、以下のようなものでした。
(GW期間中の別日に六甲山で計測。それぞれ単に登坂しただけなので、今回の実験のように条件は揃えていません。パワーソースは、同じです)

スペシャリッシマ 20:45 ave282w
エモンダ 19:41 ave287w

同じ4.5kmの登坂でしたが、平均勾配が9.7%になると約1分の差がつきました。もしレースであれば、順位が幾つ変わるか分からない程の大きな差です。

まとめ

結論「ヒルクライムにおいては、軽量バイクの方が速い!エアロがどうこうなんて謳い文句は向こうの都合で、結局軽量命!」とそれっぽく書きたいところですが、私はその様には書きません。

コースや、乗り手の出力・体重によって、結果は変わる可能性があるからです。実際に、パワーを上げるとタイム差は逆転しました。

一般論として、パワーがある人ほど速度が出る分、エアロフレームが有効に働きます。逆に、パワーは小さいけど体重が軽い人や、コースの勾配がキツくなれば、軽量バイクに分があります。

あくまで「今回はこうでした」というだけです。勿論、この実験は結論ありきのモノでは有りません。エモンダもスペシャリッシマも、大切な自分の自転車です。どちらかに肩入れする必要はないし、忖度もありません。そこは、誤解の無いようにお願いします。

  • この差なら、ディスクブレーキの安定感を優先したい。
  • この差なら、わざわざエアロ系ロードバイクに買い替える必要性を感じない。リムブレーキで十分。
  • 私は、4.4w/kgで登り続けるのはムリ。それなら軽量バイクの方が有利な気がする。
  • 7.5kgだからエアロなのに遅いんじゃないか?私は、7.0kgのエアロディスク車を組もう。
  • エモンダの6.6kgは中途半端だ。もっと軽くしたら、高速域でもリムブレーキの方が速いはずだ。
  • ディスクが重いとか言うけど、エートスを買えば全て解決する。
  • どちらも、誤差レベルの差でしかない。この実験では、どちらが速いかなんて分からない。

これを読んだ人がどのような感想を持つのかは分かりませんが、個人的には正直予想外でした。私は、エモンダがどちらも(最初の2本)10秒程度速いだろうと予想していました。

今回、リムブレーキの自転車と本気で比較してみて、ディスク車の重量に対するネガティブな感覚はかなり薄れました。むしろ、走行中はスペシャリッシマの方が軽く感じました(特に延長戦)。これに関しては、ラテックスチューブが効いている気がします。

最後に、準備も含めて大変でしたが、やってみて良かったなぁと思います。この実験と結果が、誰かの何かのお役に立てば幸いです。

編集・追記記録

2022.7.26 誤字脱字の修正。富士ヒルのタイムデータと勝尾寺のタイムに関する考察を追記しました。

2023.1.26 実験結果を、画像PDFデータ→表に変更しました。

 


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